悠太が要を見てるのは、とうに知ってた。悠太は黒目に薄く膜を浮かべて、とりつかれたように要を見ている。

ゆーうた何見てんの、ぽつりと呟けば、何でもないよといつもこちらを振り向いてくれた。それが呼びかけても駄目、つついても駄目、しまいには首に手を回すまで気づかないほどになった。

そんな時、決まって悠太は「どうしたの?」なんて言って無理に笑おうと試みる。しかしもともと表情筋など無いに等しいものだからすぐに撃沈して、泣き笑いみたいになる。そのたびに悠太は「ゆーき、また眉間にしわよってるよ」と言った。

みつめる、という表現はどこと無くしっくりこない。例えばあの黄色いくまのキャラクターが、おやつに蜂蜜を食べるときは「みつめる」であり、あんな状態ではなくもっと目を爛々と輝かせ嬉々とするだろう。あのくまが、起きがけに赤い服を頭から被るときがちょうどあんな状態だ。
意識下に置けない基礎代謝のように体に染み付いた行動、といったところか。
それでもまだ無謀なことに、悠太が要を見ているのは、笑えない冗談だと信じていた。





春休みになると震動しない携帯をいつまでも見ているようになった、無心のあの目で。自分からは決してメールを送ろうとはしないのに。
それでとうとう限界が来て、
ついに悠太に対して行動を起こしたのは、進級する前日の夜。


「要のこと好きなんでしょ」


二段ベッドの上段にむかって話し掛けた。何も見えない暗闇の中、恐らく悠太が寝返りをうったのだろう、頭上でギシリときしむ音がした。絞り出した声が震えた。


「気持ちわるい」


その言葉がどう矯正されて、あるいはどう歪曲されて双子の兄に刻みついたのかは知ったところではない。

けれど、低い天井から届いたのは


「わかってる」


茶室で着物の背筋を伸ばしているときの声だった。





要と悠太は同じクラスになってしまった。

なおかつ、いつの間にか前後の席になっていた。


悠太との間にはやんわりと溝が出来た。悠太のほうが心身共に間隔をとってくるようになったのだ。




「先に帰ってて」


さっきどこかで聞いたばかりの台詞が携帯画面に並んでいたその日、一人ぽつねんと教室に残った。どうしても残らなければいけないという使命感と、直ちに校門を飛び出してしまいたい不安感がせめぎあって苦しかった。



どれくらいそうしていただろう、二人分の微かな足音が耳をかすめて我に帰った。
廊下から隣の教室を覗いて、初めて知ったのは、暗い暗いとばかり思いこんでいた放課後の教室は、カーテンから差し込む光によって薄明るいこと。


そして初めて、要とキスする悠太、日だまりに溢れている悠太を知った。


やっとわかった気がした。見ていたのは。呼吸をするように見続けてきたのは。



やっぱり気持ちわるいよ、ゆーた。


ああ舐めてしまいたくなかった。蜜だなんて嘘。こんなの、甘い甘い、毒でしかない。




Poison is as sweet as honey.



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