*パラレルワールド




距離感というものが、しばしば溶け落ちる。
無意味に振り上げた右足の小指が見事にベッドの脚にヒットし、悠太は悶絶のあまり、あー、ううと声にならない声を絞りだした。そのままシングルベッドにうずくまる。
春と剣道をしていた中学の頃はまだ、空間把握に長けていた気がする。竹刀を持ち、その分広がるリーチ範囲と敵の動き、間合い。それらを、悠太は大変理解していた。

それがどうだ。頬杖をついてうつらうつらしている授業中など、何度もバランスを崩して要に怒鳴られた。お前どうせなら机に倒れろ、なんで椅子から落ちそうになんだよ。その度に腕引いてやる俺の身にもなりやがれ。
ありがとう、と素直にしおらしく言っておいた。要はまさに豆鉄砲を食らった鳩の顔になり、横でやり取りを聞いていた千鶴が、ぶは、ゆうたん最高ー!と吹き出した。


とどのつまり、悠太の距離を計る感覚は、しばしば何らかのものから影響を受けているようなのだ。
結論づくと不思議に穏やかな心地になって、悠太は痛む小指を包み込むような体勢ですぐに眠りに落ちた。




重い瞼をこじ開けると、代わり映えのない見飽きた天井は、長い前髪に遮断されて見えなかった。
近年稀に見る寝覚めの悪さに悠太は最悪だ、と思った。まるで低血圧持ちであるかのように、全身が重く、くすぶっている。それでもどうにか体を起こして、はたと異変に気づいた。悠太は今、赤いTシャツを着ている。でも昨夜は確かに、パジャマを着込んだはずだった。

何かがおかしい。

ばっと部屋を見回す。色彩豊かな本で埋めつくされた本棚。おじいさんのように



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