左右対称に育てるという案もあったらしい。
折角生まれつきここまでそっくりなのに違いをつけては勿体ないという訳である。
その話を初めて聞いた時、俺はつくづく親というものは勝手だなぁと思った。

実際、俺達はしばらくクローンないしドッペルゲンガー状態にされていた。おんなじベビー服を着て、おんなじ髪型をして。道行く人がみな目を見開くほどに俺達は瓜二つだったそうだ。

されどもその均衡は呆気なく崩れ去った。
理由はこれまた簡単で、親が見分けられずに不便だったから。

ひょっとしたら、俺が覚えているいちばんさいしょのメモリーかも知れない、真ん中分けのゆーた。

先に髪の毛を整えてもらって、俺はアーゥもウーァも言わずに文字通りおとなしく、ゆーたのセットが終わるのを待っていた。「はい、できた」

俺はさっそく振り向いた。
ゆーたのきらきら光る栗色の前髪が、ふたつに分けられている。ちっちゃな白いおでこが目に焼きついた。ゆーたはかすかに唇を尖らせていた。俺だけがしってる不機嫌のサイン。

「違うくなっちゃった、ね」

ようやく出てきた言葉はそんなものだった。まるで隕石がずどんとおちてきたみたいに、俺の満足心はぺちゃんこになって、俺は完全に停止した。

「うん」

さみしい、ゆーき


だから、そう言ってからだに飛びついてきたからだを、とっさに抱きかえせる訳もなかった。



あの瞬間を俺は今でも後悔している。


草木が芽吹いて育って枯れて、街が動いた空き地にビルが建って、日が昇って沈んでまた昇った。

そして、俺の隣には悠太。

「さっきの車、すごいスピード出してたね」
「悠太、危ないからこっち側に居なさい」
「そんなことしなくても大丈夫です」
「せめてもうちょい俺のほー寄って」
「…大丈夫だって、いってるのに」


さみしいよ、ゆーた
おれもさみしい。


歩道側に守ってあげた悠太にぎゅーと抱きついてみる。「なに、急にどうしたの祐希」くすぐったそうに身をよじって逃げようとする。「じっとしてよ」
俺達のどこがシンメトリー?趣味も思想も、あの瞬間たしかに左右に分けられた。
抱きしめかえしてくれないその細い腕をうらめしいと思う。何もわかってない悠太。どうしてひとつに纏まり絡み合っておかなかったんだろう。


せめて、同じ向きに寄り添ったまま果てまで行けますように。







一種のけだるさを醸しだしながら抱き着いてきた割に、祐希の力は強かった。俺の右半身が小さく悲鳴を上げている。俺に言わせれば、何もわかってないのは祐希の方だ。

ふたつになったあの瞬間に自我を手にした俺は、同時にもうぜったいはなれないと決めたんだよ。

祐希は俺達が自分というものを持ってしまったことを嘆いている。けれど鏡に映った祐希をみて、はじめて俺は俺というものを知ることができるのだ、皮肉なことに。



合わせ鏡じゃなくても隣り合えるってこと、おおきくなった俺がきみに証明してあげるよ。







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