アクアマリン

5/3 春誕(のボツ)



夢の中にいると。


何処までも深い青の世界。地平線も水平線も存在しない。ピチョン、ピチョンという音を聞いて、ああ誰かが近くで泣いている、と思う。同時に助けてあげたいと思うのに、自分以外のものが見あたらない。膨大に広がる青、青、ただひたむきに反響する水音。歯がゆさの重圧に耐え兼ねて、空間の断片に隅っこという名前をつけてしぶしぶ座り込んでいる。


「それが僕なんです」


部活後の茶室で、春はずっと着物の袖を見ながら、言葉を選んでぽそぽそと喋った。

悩みがあるなら聞くよ、と切り出したのは俺のほう。今日は自分の誕生日なのにやけに沈んでいる春が、心配になったからである。祝いの言葉を笑顔で受け取っていると思いきや、すぐに表情を曇らせる。春は嘘をついて体裁を保つということがとても不得手であり、そしてそれが春のよさである。むしろ策略家な春なんて御免こうむりたい。


「ちょっと僕おかしいですよね、悠太くん…。
疲れてるんでしょうか」
「いや、この普段のゆるゆる生活で疲労とかまずないと思うよ、ツッコミ番長の誰かさんを除いて」
あ、そういえばと俺は続ける。


「夢にみるものって、自分の願望なんだって」


完全に雑誌か何かの受け売りだし、科学的に実証されているわけではないだろうと思うけど。
なんて、俺の弁解をロマンチストの春が聞き入れているはずもなく。


「…願望、ですか」


すとんと納得してしまった。

春は正座しなおすと、背筋をぴんと張って、そして今日初めて俺の目を見た。その目に灯る光があまりに強かったので、俺は縫い留められたように動けなくなる。


「僕の目に映る悠太くんが青いのか、それとも逆か、どっちなんでしょうね。どちらを僕は望んでいるんでしょうか」


珍しい。春がこういう試すような物言いをするのは。

そして、

「…両方、っていう選択肢はないの?」

こんな抽象的なことを真剣に考えている俺も。



いつまでも青くありたい。青くあってほしい。それが18歳の僕らの、みずみずしさへの渇望なんだ。


――――――
ボツになった理由。

@あまりにも可愛げがない
A春悠…?
B春誕…?
CGWって学校休みじゃない?
D茶室設定もったいなくない?

以上です。でも永久お蔵入りは寂しいのでログ行きにしました(^o^)


(2012/05/06)
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