太陽の指輪





《…ですので、絶好の観測日和となるでしょう…》


響きの良い声でアナウンサーが宣言した。眠い目をこすりながら画面を眺める。ずらりと整列する晴れマーク。
「見ようよ」「やだよ」「なんで」
「だって俺達専用めがね持ってないじゃん」
「買わなくてもいいって言ったのは祐希でしょ。要は高いの買ったって」
「流石ですねかなめがねくん」


今朝のおかずは目玉焼きだ。つやつやと主張する橙色。あ、いいこと思いついた。お前にはマヨネーズがお似合いだ。ど真ん中に「どーん」
少しいびつなわっかの出来上がり。
「ほら悠太、金環日食」
「…ほんとだね」


溜め息なんかついちゃってもう。幸せにしてあげないよ。







そのまんまずるずる攻防戦を繰り広げていたら、完全な輪になる予定時刻を過ぎてしまった。そしてピークを過ぎたとたん雲が流れだした。なかなか空気の読めるやつだ。
「これなら見てもいいんじゃない」「駄目です。裸眼だと角膜が傷つくんです」「悠太、いい加減機嫌なおしてって、ばっ」
「わっ…、」

悠太の手を無理矢理引っぱって窓際に寄る。


いちめんの曇り空が、そこだけ縁取られていた。
歪みのないリング。



地上にあるどんな黄金も目じゃない。これはきんいろという色のあるべき姿だ。



美しいと、思った。



「俺から見えるあれ、悠太のものだよ」

「…プロポーズみたい」「うん、そう」



今日はとくべつな日。だからこんなクサイ台詞も言えちゃう。

流れの速い雲のなかに、俺達のシークレット・リングは静かに綴じ込められていった。


(2012/09/30)
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