屋上





要が自販機で烏龍茶を買った。何の変哲もない紙パック。本当、お金持ちの考えることはわからない。

「おい、置いてくぞ」

「ちょっと待ってよ、」

幼さを残した広い背中を追いかけて薄暗い階段をのぼっていく。
と、先にのぼりきった要がドアを勢いよく開けた。瞬間、瞳孔に飛び込んできた直射日光に、俺は思わず目をしばたたく。

「何変な顔してんだよ」

いっぱいの光を背にしてにかっと笑う要。普段はみせない、心の底からリラックスした笑顔だ。(ちょっぴり、優越感にひたってる時の顔でもある。)

「…眩しい」
「あ?」
「眼鏡。太陽が反射して目に痛い。
俺の目が焦げたらどう責任とってくれるの」
「お前目の色素薄いから焦げねぇよ」
「そっか」


「すげ、見事に誰もいないな」

要はさっさと手すりにもたれて烏龍茶にストローをさしている。
その飄々とした様子に肩を竦めてから、階段を駆け上がって横に並んだ。

「…なんで烏龍茶なの」

「なんでって…気分?」
そう言いながら口をつける。半透明のストローの中をお茶がのぼっていく。その様子をぼうっと見ていたら、

「飲みたいならやるよ」

なんて言って紙パックを差し出してきた。相変わらず得意げというか満足げ、とにかく優越感に溢れた表情。

「どうも」

なんとなく、そんな気分だったから目の前のストローに口をつけた。渇いた舌に水分が染み入る。ああ、烏龍茶ってこんな味だったっけ。
紙パックを支えている要の手は微動だにしない。ちらりと顔を見上げたら目があって、それからいっきに赤くなった。まさか本気で飲むとは思ってなかったらしい。慣れないことするからですよお父さん。


「ゆっ悠太、お前」
「意外と美味しいね、烏龍茶。はい、ありがと」
「…あ、ああ」





このあと要はどうするのか



(2012/04/04)
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