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私が本当に大切にしてきたものは何だったのだろう。
私にとって、女傑族の掟が本当に最も大切なものなのだろうか。
しかし私は、この生き方以外知らないのだ。
それが私を取り巻く環境の全てだったから。
◆◆◆
「今日、乱馬のところに行って来てもいいあるか?」
いつも忙しい猫飯店も今日は休店日。
中国娘のシャンプーは、今日も意中の彼の元へと赴く為、彼女の曾祖母に許しを請う。
「おお良いとも。気を付けてな。」
勿論彼女の年相応とも言える可愛らしいおねだりに、コロンも快く応じる。
しかし、だ。
「シャンプー、つれない乱馬なんか放っておいてオラとデートするだ!」
彼女の幼なじみでもあるこの男、ムースは、それを快くは思わなかった。
言わずもがな、この男は彼女が乱馬を慕うように、彼もまたシャンプーに恋い焦がれていたからである。
「誰がお前なんかとデートするか。するだけ時間の無駄ね。」
彼女はそんないじらしい男の方など見向きもせず、きっと意中の彼に振る舞うであろう料理をおかもちに入れ、それを手に取りそそくさと出て行ってしまった。
ガックリと項垂れるムースに、コロンも流石に同情してしまう。
我が曾孫ながら、罪作りな女だと思った。
確かにムースは乱馬より、そしてシャンプーよりも武力の面で劣るであろう。
しかしながら、自分のかわいい曾孫を今最も深い愛情で包んでいる男はこの男で違いないだろうし、この先シャンプーを愛する男は多々現れると思うが、彼以上にシャンプーを大切にしてくれる者が現れるとは到底思えない。
何時もは割とムースを蔑ろにしているコロンであるが、実を言うとムース根性とシャンプーに対する誠実さは認めていた。
そして年ゆえの勘だが、シャンプーもいつも態度で表すほど、あながちムースの事を嫌ってはいないのではないかと思っている。
それが好意であるかと聞かれれば一概に肯定することは出来ないが。
「はて、どうなることやら。」
コロンはニンマリと笑う。
要らぬお節介かもしれない。
しかし若者の色恋沙汰など、年寄りにとっては楽しみの一つでしかないのだ。
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