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その後玲子は、シャンプーとムースに軽く会釈をして去って行った。

その表情は寂しげで、ムースは罪悪感に駆られたものの、ここで彼女を追いかけてはいけないと分かっていた。

確かに、玲子に少し惹かれていたかもしれない。それは事実だ。しかし玲子とのデートを通じて再確認したのは、彼が最も愛している相手は彼女では無いし、片思いを諦める気は無いということだ。


「浮気者。」


その愛しの彼女から最初に発されたのは、小さな非難だった。

「…なんじゃシャンプー、もしやヤキモチを焼いておるのか?」

ムースが嬉しそうにシャンプーの方を向くと、彼女はフンと鼻を鳴らす。


「そんな訳無い。しかしお前に惚れられる女は大変ね。それに耐えられるのは私位しかいない。だから他の人に迷惑掛けるのはやめるよろし。」


そう吐き捨てると、彼女はズンズンと歩き出した。

「シャ、シャンプー!待つだ!」

先を行くシャンプーの背をムースが必死に追いかける。


自覚はしたものの、彼女が彼に対して素直になるのにはもう少し時間がかかりそうだ。

シャンプーは思う。

何時も自分の欲しいものは、遠くにあった。掴めたものもあれば、例えばどんなに努力しようとも乱馬のように届かないものもあった。

しかし、遠くの輝かしいものを追いかけることに夢中だった自分は、あまり自らの足元を見ていなかった気がする。

灯台下暗し、とはよく言ったものだ。


「お前が好きになるのは私くらいにしておくよろし。」



大切なものは、すぐそばにあった。


end



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