闇小説 | ナノ
例え、君が居なくなろうとも。俺が死のうとも

あの日の約束を忘れない。あかねを愛してる。

だから、俺は約束を守るよ―…



◆◆◆


久しぶりに帰ってきた、天道道場。
変態体質を治すために、三年間もかかった。だから全てを懐かしく感じていた。


その三年前というのは、アイツにプロポーズした年でもある。それから、俺たちは一度も会ってない。電話で話したのも四ヶ月前くらいだ。今日はあかねを驚かせるために、帰国さえも知らせていない。


そして、俺は一つの決心をしていた。


…あの日の約束を守る為に…。


早く会いてぇなあ。と、俺は心底そう思った。



久しぶりに帰ってきた町は、前とは異なるところも多々あった。


あかねも変わっているのだろうか。


――何せ、三年の月日だからな。



そして俺は、天道道場へと直行した。


会いたい。


その言葉だけが俺の脚を動かしているかのようだった。



『ピンポーン――…。』



天道道場の、インターホンを押す。



『ガチャリ。』


玄関が開かれた。其処には、なびきの姿があった。



「ら…乱馬くん…。」



なびきは、俺の姿を確認した瞬間、焦ったような顔つきになった。

それは、何時もクールななびきにとってあるまじき焦りようだった。

その行動を不審に思った俺だが、とりあえず本題に入る事にした。



「あかね、何処にいる?」


俺は何気なく訊いた。



本当に、何気なく。




「…こっちに来て。」





俺はなびきに連れられて、居間の方へ行った。




「…あかね…乱馬くんが帰ってきたわよ。」





俺は、思わず立ち止まった。


仏壇で微笑んでいる、あかねの写真を見つけたからだ。





「二ヶ月前―…あかねは、死んだわ。」






嘘だ。




ウソだ。




ウソダ。




うそだ…!




なびきの言葉が信じられなかった。


というよりも、信じたく無かった。


きっとなびきは俺を慌てさせて笑う為に嘘を言ってるんだ。


タチの悪い冗談を言ってるんだ。



そう、思いたかった。



これが夢であるならば、直ぐにでも覚めて欲しいと願った。


だけど目の前にある遺影が、俺を一気に現実へと引き戻す。





「実はあかね…乱馬くんが中国に行ってからすぐに、病気になってたの。」





俺は、なびきの方を向いた。


怒りにも似た感情が、俺の中からふつふつと湧き出るのが分かった。




「…じゃあ、じゃあ何で俺に教えてくれなかったんだ!!」



俺の目からは、熱いものが流れていた。


そしたら、無理してでも帰国して、あかねの傍にいてやれたのに。



なびきは悲しそうに目を伏せた。


「…あかねが、言わないでって言ったの。」





「え…。」





「あかねの病気は、骨髄の病気だったの。その病気の進行を押さえる薬は、髪の毛が抜けてしまうという副作用があったわ。…だから、多分あかねは乱馬くんに、そんな姿を見られたく無かったのね。」



なびきの頬も、涙で濡れていた。




「こっちに来て。」




そう言って連れられて来たのは、あかねの部屋だった。



何もかもがそのままにしてあって、あかねがまるで其処にいるかの様だった。



そしてなびきは、あかねの机の上に置いてあった封筒を俺に渡した。




「…あかねが、乱馬くんに宛てた手紙よ。…誰も、読んでないわ。」




俺はなびきに促され、封筒を開けた。



なびきは気を使ってか、そのままあかねの部屋を出ていった。




手紙を、開く。






乱馬へ



この手紙を読んでるって事は、日本に帰ってきてるんだよね。

お帰り。

変態体質、治ったんだね。
おめでとう。


本当は、直接会ってそう言いたかったけど、私の身体は持たなかったみたい。

…ごめんね。


ねえ、少し聞きたいことがあるの。

私が東風先生の事忘れる事ができたのは、乱馬のお陰だって知ってた?

乱馬が、あれ以来最後の恋。




そして、一生分の恋でした。





いつも、殴ったりかわいくない態度とったりしてごめんね。

高校の時はずっと一緒のクラスで本当に嬉しかった。

でも両思いになれた時が一番かも。


プロポーズされた時は…本当に死んでもいいと思った。


…本当に、そうなっちゃったね。


ベッドに居る時も、苦しい時にも、貴方の声だけが私の薬だった。


そして、何時も想ってた。


そして…約束、守れなくてごめんね。



乱馬と一緒に幸せに暮らすこと、そして結婚するのが、ずっと夢だったのに。


それがもうすぐ叶うと思ったら、身体がもたないなんて。


皮肉だね。

この身体が憎くて仕方ないわ。


…不安を漏らすのは止めようと思ったんだけど、ごめんね。少しだけ…漏らしても良い?




死ぬのが怖い。

死にたくないよ、乱馬…!


生きていたい。


幸せになりたい。それなのに…!




もう、駄目みたい。



なんにも知らせずに死んでいく私を許してね。


勝手なこと言って、ごめんなさい。


私のことは…もう忘れて?



でも、ずっと見守ってるから。

ずっとずっと、見守ってるから。




そして、ずっと…




ずっと、愛してる。





あかねより






ぽた…ぽた…。



涙で手紙が濡れていく。


気付かなかった。気が付いてやれなかった。


あかねはこんなにも苦しんでいたというのに。



何も、してやれなかった。無力だったんだ。


こんな事なら、すぐにでも、無理してでも日本に帰るべきだったんだ。


電話を、もっとかけるべきだったんだ。




「……っ。あ、あかねぇぇっ…うぁぁぁぁ…!!」




一番愛しい人を失ってしまった。



俺は、これからどうしたらいい?なあ、あかね。



絶対に返ってくるはずのない答えを俺は求めた。



「あかねは…幸せだったと思うわ。乱馬くんの事を誰よりも愛して。乱馬くんに誰よりも愛されて…。」


いつの間にか背後に来ていたなびきが語り始めた。


「乱馬くんは…あかねの分まで長く生きて。…そして、幸せになって欲しい。」



なびきの言葉で更に涙が零れ落ちた。



きっと、俺はあかねよりも好きな女なんて出来ないだろう。


だから、これを君に渡すよ。


あの日誓った約束を。



「…あかね。俺は、約束を守るよ。」



俺は、ポケットから小箱を取り出した。中身はもちろん、俺たちの愛の証。


そして、その小箱を遺影の前に置いた。



「…結婚しよう。俺は、生涯お前しか愛さないから。」



どんなに離れていても、例え会えなくても。



ずっと、君を想うよ。



そして、何時かまた会おう。


その時には君を抱きしめるから。


…俺の傍で、もう一度俺の一番好きなその笑顔を見せてくれ。



I will love you forever…。




end

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