短編小説 | ナノ
「■虜(ちゃたろう様リク)」




切実に狡いと思う。

突然やって来た許嫁の彼は、何時も私を魅了して離したりしない。

私はもう、彼の虜なのだ。


◆◆◆


それは家族全員が家を空けていた、私と乱馬の二人きりで留守番をしていた時だった。

「あかね」

突然呼ばれた名前。何時もより心なしか低音なその響きは、私の鼓動を高鳴らせるには十分なものだった。
視線がぶつかる。

最近やっと言葉を交わさずとも口付けをするタイミングというものが分かってきた私達は、何も言わずに唇を重ね合った。

最初は触れるだけだったそれは、徐々に深いものへと変化していく。縦横無尽に駆け巡る乱馬の舌に、私は成す術が無い。


絡まる互いの唾液の音は静かな居間にこだまし、それが興奮材となったのか、乱馬の舌の動きが機敏になる。

私は苦しくなり、乱馬の胸板を叩いて抗議した。


「弱っちいヤツ。」


解放された唇に私が息を上げていると、乱馬は私の口の端に光る、どちらのものか分からない唾液を舐めとった。

そして、胸元に上がる乱馬の掌。


「駄目、待って…!」

「待てない。」


無論、今の彼に私の抗議の声は届かない。

仕方なしに何時も通り拳を振り上げようとしたその瞬間。私の腕、両手首は乱馬の大きな手によって捕えられた。


「俺に、力で敵う訳無いだろ?」


――悔しい。真っ先に浮かんだ事はそれだった。確かに乱馬の言葉通り私の力じゃ本気の乱馬の力に敵う訳がない。


男の子にも負けたことがないという強さに関する自尊心は、乱馬が現れた瞬間にズタズタに引き裂かれた。
しかし生まれたものは妬みや憎しみでは無く、それは確かに愛だった。


しかしながらそうは言ってもやはり、悔しいのだ。私が敵わないのは力だけでは無いと分かっているから。

私はきっと、乱馬の全てに敵うことはないだろう。だが私は意地っ張りだ。だからこそ何時ものように悪態をつくのだ。


「本当にあんたって馬鹿。」


その言葉に乱馬は、相変わらずかわいくねぇな。と笑った。

そんな笑顔を見せ付けられれば、嫌だなんて言えないではないか。

何時からだろう。私は乱馬の一挙一動にドキドキさせられっぱなしだ。


切実に、狡いと思う。



私はどうやら、貴方の虜。


end



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