「■知ってる答え」
今まで寸胴だとか色気がないだとか色々あかねに言ってきた。
でもそれは、自分の気持ちを誤魔化す為だったのかも知れない。
最近、ふとしたあかねのの『女』の部分にドキリとしてしまう。
もう待てない。
早く、俺のものにしたい。
◇◇◇
その日は突然やって来た。
「あかね、乱馬君。戸締まりはちゃんとしておいてね。」
「うん、かすみおねぇちゃん。楽しんできてね。」
今日は皆訳ありで外出。
かすみさんを最後に、俺とあかねは二人きりになる。
俺の心臓はドキドキしてる。なんせ、好きな女と二人きりだぜ?
こんな美味しいシチュエーションなかなか無い。
普通の健全男子の俺が、こんな場面でそういうことを考えないはずが無い。
でも、俺なりのモラルというか、モットーというか…
結婚するまでは、あかねの貞操は守り抜く!!
と、自分一人で勝手に考えていた。
そして、自分をずっと信じていた。
だけど…今日のような場面となったら自分自身を信じることが出来なくなっていた。
「乱馬、先にお風呂入ってきたら?」
「お、おう。」
『お風呂』という単語を聞いただけでそっちの考えを浮かべてしまう俺。
やべえな。どれだけ俺あかねの事好きなんだよ。
あかねが欲しい。
巡る言葉はたったの一つ。
でも我慢しなきゃいけねえ。
俺の頭の中で葛藤が始まる。
ジジイに貧力虚脱灸をすえられた時並みの苦悩かもしれない。
本当にそれぐらい大切なこと。
あかねは俺にとって格闘と同じくらい…いや、それを上回るほど大切な存在だから。
風呂上がりにそんなことを悶々と考えている、そのときだった。
「ね、ねえ…。」
風呂から、風呂上がりと思われるあかねの声が聞こえる。
「なんだ?」
平然と振舞って、返事を返した俺に衝撃の一言が発される。
「…着替え忘れちゃったの。持ってきてくれる?」
つまり、今あかねはバスタオル一枚だということで。
…おい、ちょっと待ってくださいよあかねさん。俺だって健全男子君ですよ。
そんなことを思いつつも、着替えを風呂場へと持っていく。
カチャリとドアが少しだけ開き、少し濡れた白い腕だけがこちらを覗いた。
「ありがと。」
一方、滅多にないあかねの『ありがとう』と、その白い腕に俺の頭はフリーズを通り越してピンク色へと変わる。
やばい、やばいぞこれは。
今までに無い興奮。
「ふー。いいお湯だった。」
今度は大きくドアが開き、上機嫌なあかね本人が出てきた。
生乾きの髪。
清潔感溢れるせっけんの香り。
何かが、プチンと音を立てて壊れた。
俺なりのモラル?
俺のモットー?
そんなこと、もう知らねぇ。
あかねを引き寄せ、口付ける。
突然の行為に慌てるあかねだが、それを静止させるかのように俺はあかねの耳元でつぶやいた。
「お前・・俺のこと好きか?」
え・・。と、声が少し漏れたのが聞こえた。
「俺はお前のこと好きだけど、お前はどうなんだよ。」
あかねの顔が赤くなっているのが分かる。それはきっと、風呂に入ったせいじゃない。
「勿論私も…って、な、何で急にそんなこと聞いてくるのよ、ばか。」
あかねの答えがそうである事はなんとなく分かっていた。
自惚れってやつかもしんねえけど。
「じゃあ、俺のものにしていいんだよな?」
「え・・」
「あかねが欲しい。」
それだけつぶやくと、俺はあかねを抱きかかえあかねの部屋へと向かった。
「ちょっと待って。私まだ心の準備が・・」
「黙れよ。」
静止させるために乱暴に口付けた。
もう知らねえ。
どうにでもなっちまえ。
大体、さっきの着替え忘れるのだって煽ってるようにしか見えねえんだよ。
あかねが悪い。
勝手に責任逃れをする卑怯な俺。
「俺のこと、好きなんだろ?まあ、俺はそれ以上にお前のことが好きだけど。」
大きな瞳が、揺れる。
「・・・・ずるいよ。」
あかねが言った。
「そんなの、ずる過ぎ・・。」
相変わらず、石鹸の香りが鼻をくすぐる。
そんな中、俺はもう一回答えがわかって聞くんだ。
「俺のものにしていいか?」
答えの代わりに、あかねはそっと俺に口付けた。
甘い、夜は更けていく・・
end