短編小説 | ナノ
「■俺だけのもの」




誰かを愛するまで――そう、あかねを好きになるまで自分がこんなにも嫉妬深いとは知らなかった。

あいつを誰にも触れさせたくない。

あかねは俺の許嫁。
そして、俺だけのもの。


◇◇◇


気に食わない。
非常に気に食わない。

数刻前から俺は苛立ちを覚えていた。そう、あいつがあかねに話しかけてからだ。
あいつというのは高校の頃の同級生、石川である。
高校の頃は気付かなかったが今分かった事がある。

…こいつ、あかねに好意持ってる。


きっかけは、全くもって乗り気では無かったがあかねがどうしてもと言う為参加したこの風林館高校同窓会にあった。

自分としては此処は(女子はともかく男子の場合)悪酔いした奴らばかりで居心地が悪く、酔いに酔ったこいつらと話していたいと思わない。むしろ参加したばかりに気分を害しているだけだ。


「おいおい乱馬。嫁が浮気してんぞ。」

「誰が嫁だ。」

そう言ってからかってきたのは想像もつくであろう、悪友の大介である。

「え、もしかして乱馬、浮気肯定しちゃう奴なのか?」

そしてもう一人の悪友、広もからかいに便乗する。

「するわけねーだろーが。つーか、あかねは話してるだけだろ。なら別に…」

しかし実際、口にした言葉と思っていることは全く一致していなかった。むしろ俺にとっては気に食わないことで、甚だ苛立っている。

本当はこういうことだけでは無くて、あかねの口から他の男の名前が出たり、部屋に男性が表紙の雑誌があるだけでも気に食わない。
俺だけのものにしたい。俺という空間だけにあかねを閉じ込めて、二度と出られないようにしたい。

そんなまでに、醜い欲望。
愛するという事経験するまで知ることも無かった自分の罪。

「それより大介、ひろし。こんな所来て楽しいか?正直俺は来なきゃよかったって後悔してるね。」

あまりの酷い状況に、ついに俺は愚痴を漏らし始める。そうでもしてないとやってられないのだ。

「愚問だな。楽しいに決まってんだろ!女の子との出逢いが、此処に…!」

「だよな。これで俺も彼女を作って脱童貞だ!」

…良いのか悪いのか、大介やひろしはちっとも変わっていなかった。そんな大介とひろしの性格を今は少しだけだが羨ましく思う。


「しかしなー…石川、まだあかねのことが好きだったんだな。」

大介は、遠い目をして言った。

「…やっぱりそうか。」

「どう見たって、スキスキ光線出してんじゃねーか。ほら、あれとか…。」

その大介の視線の先には、石川とあかねの姿。

しかも石川はさりげなくあかねの頬を触っている。

プチ。という音が何処からか聞こえた気がした。


「…いいのか?旦那?」


「良い訳…ねえだろっ!」

言い終わる前に、俺は立ち上がっていた。突然立ち上がった俺を、皆は奇異な目で見上げる。

勿論、あかねや石川もだ。

「…てめえ何してんだよ。」


キッと、石川を睨み付ける。

「え?」

どよめき始める周囲に目もくれず、俺は続けた。傍目なんざ知ったことではない。


「そいつは俺のなんだよ。馴れ馴れしく触ってんじゃねえ!」


大きく怒鳴った俺の声に石川だけでは無く、にやける大介とひろしを除く一同まで怯えていた。

当のあかねは狐につままれたような顔で俺を見つめていた。石川が自分に好意を持っていることに気付いていないからか、もしくは鈍感なのか。

とにかくこの状況を抜け出したかった俺は、あかねの手を引き会場を後にした。


「ちょっと、どうしたのよ乱馬!」


あかねは何が起こったのか分からないようで、俺に抗議しする。

くそ、鈍感女め。そう思った瞬間、無理やり押付けた唇。

物理的及び心理的に効いたのか、ようやくあかねの怒鳴りが収まった。


「他の男とあんま話すな。いい加減気付けよバカ。」


その言葉にようやく俺の行動の理由が分かったようで、あかねの白い頬がほんのり朱に染まった。

「…ふふっ。」

脈絡もなく、あかねが笑い出す。今度は逆に俺がぽかんとする番だ。

「俺は怒ってんだぞ。何笑って…」

「だって嬉しいんだもん。それって、ヤキモチ焼いてくれたってことでしょう。」

「…うるせー。」

可愛らしく笑う彼女に照れ臭さを感じ、俺はそっぽを向いてぶっきらぼうに答えた。

そして、キュと握られる手。にこりと笑う、笑顔。


「ごめんね。乱馬の嫌な気持ちに気付けなくて。石川君とは本当にただお話ししてただけよ。」

「…ああ。」


小さなあかねのそれを強く握り返す。あかねが嬉しそうに俯いたのが分かった。


「それはそうと、今日は家には帰らねぇから。」

「え?」


つうか、帰さねぇから。と心の中でこっそり付け加える。

「今日俺を不快にさせた分、お前が責任取れよな。」

そう言ってもやはり、意味が分からないといった顔つきのあかね。鈍感にも程があるとかいうやつだ。

「まあ、楽しませてくれよ。あかねさん?」

そうして俺は鼻の頭に優しく唇を落とした。

ようやくあかねは意味が分かったようで、再び頬を真赤に染めた。

誰も知らないあかねを俺だけが知っているという優越感。唇の感触。あの時の息遣い。声。俺だけに見せる、笑顔。


「お前はこれからもずっと、俺だけのものだからな。」


end


2011/10/10
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