短編小説 | ナノ

pixivにていずみさんが、乱あで前世悪魔天使パロという素敵な漫画を描いていらっしゃったので、それに影響されて書いたものです。

◆◆◆



「ねえねえ、乱馬見て。」

ティーンズ向けと思われる雑誌を、彼を待つ間手持ち無沙汰にペラペラと捲っていたあかね。しかし、ふと気になるページがあったのだろう。
そのページを、デート前だというのに、未だ追試課題に取り組み続けている彼女の許嫁である乱馬に向けて彼女は言った。


「あーもう、気を散らさすな!はやく出かけたいだろ、おまえだってさ。」


乱馬は恨みがましく彼女を一瞥する。


「出かけたいのは山々なんだけど、絶対その課題今日中に終わらないでしょ。」


彼女の露骨な嫌味に、乱馬は顔をひきつらせることしか出来ない。なんせ、これは追試課題なのだ。つまりは定期考査の結果が悪かったが為に課された課題。
全て彼の自業自得なのである。


「あーくそっ!見てろ、絶対に終わらせてやるからな。」


ヤケになり机にかじりつく乱馬。しかし、その集中力は直ぐに散らされる事になる。

あかねが先程の雑誌を乱馬の目の前に差し出したからだ。


「だから、ちょっとでいいから見てみてよ。」


突然必死になってそれを見せようとするあかねに、彼はなんだなんだと思いつつも、とりあえずその雑誌のページに目を向ける。

そこには、前世占いと書かれた大きな見出しがあった。


「占い?」

「そ、占い。」


あかねはにこやかに説明をする。


「生年月日で、前世が何だったのか分かるんですって。」

「ふーん。」

くだらない。と思いながらも乱馬は自分の生年月日の項目に目を向けた。
そして、軽く目をしかめる。


「…悪魔?」


「そ!乱馬は悪魔。でね、私は天使だったの!」


あかねは自らの生年月日の項目を指差しながら言った。


「…俺が悪魔でお前が天使?逆じゃねーの?」

「…どういう意味よ。」

「そういう意味だろ。」


次の返事の代わりにすかさず飛んできたのはあかねの肘。
見事彼のみぞおちに、綺麗に入った。


「…やっぱりお前の前世が天使だなんて有り得ねぇ。」


げほげほと涙目になりながら、乱馬はチラリとあかねの方を見た。

鬼の形相が待ち構えていると彼は思ったのだが、意外なことにそこにあったのは柔らかく笑いながら雑誌の項目をなぞる許嫁の姿。


「確かに乱馬からしてみればバカみたいって思うかもしれない。…でもね、私はなんだかピンときたっていうか、しっくり来たっていうか…懐かしいなって思ったの。」


変よね、と眉毛を下げながらあかねは乱馬の方を見た。

その表情に乱馬は何故か既視感を覚えた。毎日顔を合わせているからそれはその筈なのだが、そういうことではない。

遠い昔、その表情を見たような…と、不思議な感覚にとらわれたのだ。


「でもね…天使と悪魔が、前世で結ばれていた確率はほぼ皆無だって。」


そう言ったあかねの表情は笑いながらもとても悲しそうで…彼は思わずあかねを胸元に引き寄せた。


「…ま、良いんじゃねーの。前世で結ばれて無かったってさ。」

「え?」


そんな非現実的な話をバカにするどころか、あかねを励まそうとする姿勢を見せた乱馬に、彼女は大きく目を見開いた。


「だってよ、前世がなんであろーが、俺達が今ここで一緒にこうやって笑いあったり、下らないことで喧嘩出来たりしてることには変わりないだろ?」


そう言って乱馬はあかねの顔を覗き込む。
そして、優しく彼女の唇に自らのものを重ねた。


「…ほら、今こうやって、キスだって出来る。」


「…バカ。」


彼の言葉、そして行動によって、あかねは自分が前世のことで落ち込んでいたことがなんだか急に突然馬鹿馬鹿しく思えた。


「でも、とりあえず前世の俺達に感謝だな。」


突然放たれた乱馬の言葉の真意が分からず、あかねは首を傾げる。


「だって、もし結ばれて無かったとしても、今現在こうして俺達が巡り会えたのはそいつ等達のおかげかもしれねぇだろ?」


そう言って得意げに笑う彼が余りにも無邪気で…あかねは思わずくすくすと笑った。


「…そうね、感謝しなきゃね。」


2人はそのまま笑いながら見つめ合い、再びそっと口を合わせる。

そして、そのまま2人の影は重なった。


今日はもともとデートの予定だった。

しかしどうやら、それは中止になりそうだ。


もちろん乱馬の課題は終わることはなく、次の日を迎えることとなる。



デートよりも優先されたその事情。



その事情により乱馬の追試課題が終わらなかったのは、2人のみぞ知る話である。




end
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