この雨が永遠に続けばいいのに。
私は窓際で、灰色の空を見つめながら思った。
「今週中には明けるみてーだな、梅雨。」
「らしいわね。でもこの降る様を見てると、なんだか信じらんない。」
縁起でもないこと言うなよな、と乱馬は苦笑いを浮かべた。
乱馬はこの梅雨が明け、雨がやみ終われば、修行の旅に出るらしい。
そして彼は、元の身体に戻れるまで帰ってこないと、私の心中も知らずにぬけぬけと言い放った。
その修行が彼の生死に関わるかもしれないと、そういった面で心配をしていない訳では無い。しかし、私の心中の大半を占めているのはそのことでは無かった。
何故なら乱馬が死ぬことなど、想像もつかないからだ。
今まで彼は死に面する場面であっても、なんだかんだ言いつつ生きて帰ってきた。
格闘に関することをはじめ、生命力の強さと運は誰にも負けないと思う。
つまりは、私の我儘。
修行の旅の間、彼に、乱馬に会えないと思うと、酷く胸が苦しくなるのだ。
だから、雨が止まなければいいと思う。
私の涙で乱馬を繋ぎとめることが出来たとしても、それは卑怯だ。だから私は泣いたりしない。
第一、この旅は彼にとって新たな門出だ。
そんな門出を泣いて送り出そうとするなんて更々考えていない。
でも、もし。
私の涙がこの暗雲の雨となって降り注ぐなら、私は彼に知られぬよう、何百リットルでも何千リットルでも涙を流すのに。
私のせいで彼を引き留めたく無いから。
雨に責任転嫁してしまえば、彼を引き留めることに罪悪感を感じることも無いだろう。
「やっとだ。」
ボーッと外を眺めていると、隣にいる乱馬が突然口を開いた。
「やっと俺、ちゃんとした男に戻れるんだ。」
その目は希望に満ちていた。
私の考えていることとは正反対だと、自分の身勝手さに嫌気が差す。
でも、彼がちゃんとした男に戻ることを願っていることは事実だ。
乱馬の願いは私の願いでもある。
だから。
「男になって、早く帰って来なさいよ。」
私はこの言葉をかけるしか無いのだ。
「あかね。」
少しの沈黙の後、乱馬が口を開いた。
「あかね、俺がちゃんと男になって帰ってきたらさ。言いたいことがあるんだ。」
…この言葉が表す意味が分からないほど、私は子供じゃない。
「…うん。待ってる。」
その彼の一言だけで、心が軽くなった気がした。
雲の切れ目からひかりが漏れる。これを俗に天使のはしごという、と、ゆかに聞いたことがあったっけ。
もうすぐ、長い雨が止みそうだ。
end