くまたさんリク。
ちょっぴり大人表現が含まれます。
◆◆◆
今日の乱馬は変だと思う。
なぜなら彼がとても優しいから。といっても、それはお風呂上がりからの事、詳しく言えば前戯が始まる時からの事なのだけれど。
彼は行為に及ぶ際、いつも意地悪かつ割と強引で利己的で、所謂焦らしだったり、私を恥ずかしがらせる言葉を放つ事は行為中の茶飯事だ。
思えばその奇妙な態度は、私がお風呂から上がるのをベッドで待ち構えていた時からだったと思う。
何時もであったら彼は、私の許可無く私の身体をベッドに押し倒し、彼のペースで行為に及ぶ。
そんな彼の強引な事の持って行き方も嫌いでは無いし、実は逆にそれほど私を求めてくれているのだと、嬉しく思っていたりするのだけど…まあこの話は置いておくことにする。
しかし今日の彼の第一声は、利己的なものでは無かった。
「あかね、おいで。」
乱馬はベッド上で両手を広げ、私が来るのを待っていた。
「なに。あんた、なんか変な物でも拾い食いしたの?」
私は悪態をつきながらも彼の胸元に飛び込み頬を寄せ、くすくすと笑いながら背中に腕を回す。
それに応えるように、彼も私と同じように腕を私の背中に回してくれた。
「なんか腑に落ちねぇけど、まあそういう事にでもしといてくれ。」
顔を見ることが出来ない体制だったけど、その声色から、乱馬が苦笑しているのが分かった。
髪を掻き上げられて、そこに柔らかく唇が落とされる。
そこから電流が走ったみたいに、甘い痺れが全身に広がった。
「いつも俺ばっかだからさ、たまにはお前を甘やかせてやろうと思ったんだ。」
「どういうこと?」
「お前さ、なんだかんだ言っていつも気を張ってるじゃん。で、俺はいつもお前に甘やかされてるなって。」
甘やかしてるつもりはないのだけど、乱馬からしてみると、私は彼を甘やかしてるらしい。
もしかすると、いつも彼の傲慢とも取れる行為を許していることを指しているのかもしれない。
「今日テレビで知ったんだけど、末っ子ってさ、普通我儘で甘えん坊になるんだってさ。」
「そうらしいわね、私も聞いたことあるわ。」
「でも、お前は末っ子らしくないよな。」
そうかしら、と首をかしげてみる。
そんなことを考えていると、いつの間にか私の衣服は彼の手によって優しく剥ぎ取られていた。
「それ見ててさ…多分、あかねが甘えん坊じゃないのって、あかねがいた環境が甘えられる環境じゃ無かったからだと思ったんだ。」
「…お母さんがいないから?」
「そうだな。それに、お前は昔東風先生がその…す、好きだったんだろ。そん時のお前は…その、だから、必死でかすみさんみたいに大人っぽくなろうとしてたように見えたんだ。」
だからあまり甘えるスキルが身に付いてないように思う。と、彼は言う。
「それを言うなら乱馬だって。修行中、おじさまに甘やかしてもらう機会なんて無かったんじゃないの。」
「確かにな。でも今はずっとお前が甘やかしてくれるだろ。だから今日くらいはさ、俺が甘やかしてやりたいって思ったんだよ。」
急にそんなことを言われてもと、私は動きを固くする。とりあえずそっと乱馬の首に腕を回してぎゅっと抱きしめてみた。
何時もの彼だったら、この時点で私を押さえ込み、私の身体を自由に泳いでいる。
しかし今日の彼は、そんな私を優しく見つめてキスの雨を降らせるだけだ。
そうは言うものの身体は正直なようで、私の腹部には何か硬いものが当たっている。
それは乱馬の欲望の証であることには違いない。
それを抑え込み、我慢してまで私を甘やかしてくれているのだと思うと申し訳なく思ったが、嬉しいという気持ちもあるのは否定出来ない。
私は小さい頃からかすみお姉ちゃんやお父さんに迷惑をかけたく無いと思っていたし、それ故に我儘な子にはなりたくないとも思っていた。けれど我儘というのは、もしかしたら甘えるということなのかもしれない。
我儘に振る舞えなかったからこそ私は甘える術を知らないのかもしれない。
大人になって分かるのは、子供の我儘は子供がかわいく在る為の必須条件だということ。我儘を言わない子供はどうも可愛げがない。
乱馬はいつも私に悪態を付く時、『かわいくねえ』と言う。
私が素直に我儘を言えなかったり、甘えたり出来ない事。素直になれないこと。それは私が小さい頃の感情が影響しているのかもしれない。
彼の唇の感触を感じながら、そんなことを思った。
気づかせてくれたのは、乱馬。
私、本当は誰かに甘えたかったのかもしれないわ。
「じゃあ、今日は私をうーんと可愛がって。私を最高に気持ち良くさせて。そしていつもみたいに意地を張らないで欲しいの。乱馬の本当の言葉が聞きたいわ。」
甘えるというのはどうも難しい。
でも、今私が乱馬に伝えた事は私のありったけの我儘だ。
これで甘えるという行為は成立する。
そんな私の我儘に、乱馬は少し頬を染めて、分かったよとつぶやいた。
「あかね、好きだ。」
それは小さい声だったが、しっかりと私の耳に届いた。
私は思う。
こんな言葉が貰えるのであれば、甘えてみるのもいいかもしれないと。
でも私は不器用で、きっと自ら甘えることは出来ないだろう。
だから、私をいっぱい甘やかせて。
「私も大好き。」
その分、私もあんたを甘やかせてあげるから。
end