「□君は太陽」
ふと何かを見たとき、あるひとつのものを彷彿とさせる事がある。
自分の場合それは太陽系を成す恒星、すなわち太陽である。
格闘の大会の休憩時間中何となく真っ青な空に浮かぶ太陽を見上げた。
太陽を見る度に、意識せずとも可愛らしくもかわいくない許嫁を思い出す。
太陽の日差が照らす場所はさく状組織やら海綿状組織やらで光合成を行う植物だけでは無く、大抵の生物にとって居心地が良いものだ。
恥ずかしい話ではあるが、弾けるような笑顔を見せる許嫁はまさしく太陽の様だと密かに思っていたりする。
眩しさに凝視することも出来ないが、自分の心に光を届けるのも彼女だと。
生物の教師であったか物理の教師であったか、はたまた科学の教師であったかはどうでもいい話だが、彼らいわく夜の世界を照らす月の光は太陽の光が反射したものだという。つまりは、月というものは太陽無しには存在していながらも輝く事が出来ないのだそうだ。
柄にもなく、その関係はまるで自分達の関係のようだと感じた。
彼女が自分から物理的・心理的のどちらか片方でも離れてしまった時、自分はきっと前例に従いみっともなくしくしくと泣くのだろう。
自分が十割の力を発揮出来るとき彼女の事を漠然と考えていることを不本意ながらも自覚している。
「乱馬。」
人混みを掻き分け聞こえたソプラノの声はもちろん例の彼女のものである。
「何だよあかね。」
息を切らしこちらに向かってくる彼女に、心中を悟られないよう声をかける。
「乱馬、かすみおねぇちゃんがお弁当だって。それにしても今日の大会とっても調子いいじゃない。」
俺の心中など全く知りもしない許嫁は無邪気に声をかけるのだが、そんなのはいつものことだ。
自分が負けるわけがないのだ。というより太陽系の一惑星の住民が自分に勝てる見込みなど無いのである。
なぜなら自分には太陽系の恒星が常に味方についてるようなので。
end