「■かわいい合図」
「あかね。赤い帽子を被ると徐々に背が低くなるものってなんだと思う。」
ベッドの上で漫画を読むという至っていたずらな時間を過ごしていたはずの乱馬が急にむくりと起き上がり、机につき明日の予習をするという至って充実した時間を過ごしている私に向かって突然言った。
「…ろうそく。」
「そ、正解。」
どうやら彼はなぞなぞを私に持ちかけたいらしい。彼はどうせ私の予習ノートを写すことだろうから明日の授業のことなど気楽に思っているのだろうが、全くこちらの迷惑も考えて欲しいものである。予習といえど、割と骨の折れる作業なのだ。
しかしながら悲しいかな。彼が下らぬ事を言い出すことには大層馴れている。不本意ながらもそれに対する応答に関してもだ。
「じゃあ、座ると見えて立つと見えなくなるものは?」
私はその問いにさらりと応答する。勿論それは正解である。
彼のお遊びはまだまだ続くらしい。まだ続けるのかと、先程と同様に迷惑だと呆れる素振りをするものの、実はそれは勉強の邪魔ではあるものの不快では無かったりする。何故なら私も彼と珠にあるこうしたいたずらに過ごす時間を愛しいと思っているからだ。
しかし何故に突然なぞなぞなのか。そう思いつつも彼の口が止まったことを見計らい、私はペンを再び動かし始めた。
「…じゃあ、普段はうるせーけど、食ってみるとすげー甘いものはなんだ?」
再び彼の口から放たれた答えの分からない問いに、私は再びペンを止める。その時だ。
急に、視界が変わった。
余りにも驚いて声も出ず、気付いた時に視界に入るのは口の端を上げる乱馬とその向こう側に見える天井。
「正解は、お前。」
そんな彼の言葉を聞いた後、口づけの雨が額から鼻の頭、唇にかけて降ってきた。
「ちょっと、何してんのよ。」
照れと羞恥心から私は身を捩り、些か強引な彼に抗議をするものの無論彼が其を聞き入れる筈も無い。
「勉強ばっかしてないで俺に構えよ。」
そんな言葉にはっとして目をやると、そこにあったのは照れと拗ねが入り交じる乱馬の顔。
その表情が可愛く私は思わずクスッと笑った。
どうやら彼は私に構って欲い故になぞなぞを持ち掛けていたらしい。
「全く子供なんだから。」
私がそういうと、彼は私の服に手をかけて言った。
「ま、子供には今からすることは出来ねーけどな。」
そんな調子のいい彼に私は覚悟を決めて、目を瞑る。
「最初から、構ってって言えばいいのに。」
「…うるせー。」
その言葉を最後に、私たちの身体はベッドに沈んだ。
私にとって、明日の予習よりもどうやら彼との時間が大切なようである。
仕方ないので、明日の朝友人にノートを借りることにしよう。
end