「■世界は輝く」
「ね、あかね。本当は乱馬くんの事好きなんでしょ」
「そうよ、私たち友達でしょ。いい加減ぶっちゃけなって。減るもんじゃないんだし。」
駅前のカフェにて突然、あかねの友人のゆかとさゆりはそんな問いを彼女に向けた。
しかしあかねは知っている。少し離れた席にだいすけとひろしが乱馬を連れて座っていることを。きっと皆して私と乱馬をハメてくっ付けようとしているのだろう、とあかねは思った。
しかし乱馬がそこにいるだろうこと事位、賢いあかねで無くとも容易く分かることである。
ここであかねが自らの本心を晒せば、其が必然的に乱馬に聞こえてしまうだろう。
そんな手に乗るもんですかと、あかねは落ち着いた口調で
「好きじゃないわよ。」
と静かにそう呟いた。影に隠れていた乱馬が席から勢いよく立ち上がる。
「俺だってお前の事なんて好きじゃねーや!」
「ば、バカっ。乱馬、せっかく立てた計画がバレちまうじゃねーかよ!」
興奮故に聞く耳を持たない乱馬はそのまま店を後にしてしまった。
「あ、あかね…ごめん。」
だいすけとひろしが乱馬に続いて店を後にした後、ゆかとさゆりはあかねに申し訳無さげに呟く。
いいのよ、とあかねは返事を返した。
いつも乱馬に振り回されっぱなしだからちょっと仕返ししたかっただけだもの。あかねはそんなことをこっそり思っていた。しかし、少しやり過ぎてしまっただろうか。と少し反省もしていた。しかしながらあかねは乱馬の先程の言葉が本気では無いと知ってる。
自分と乱馬が似た者同士天の邪鬼だと知っているのだ。
「でも、好きじゃないっていうのは本当よ。」
あかねの言葉にゆかとさゆりは呆気にとられる。
今日は私が誰よりも一枚上手みたいねとあかねは思った。してやったりな気分で見上げた空は、それはそれは綺麗だった。
「さて、もうそろそろお開きにしましょ。」
そしてあかね達はカフェを後にした。あかねが軽い足取りで家に着くと、門の前に乱馬が仁王立ちで立っていた。
「本当なのかよ、あのこと。」
乱馬はあかねを見るなり開口一番そう言った。
どうやら喫茶店でのあかねの言葉を気にしていたようである。
「本当よ。」
あかねがそう言い放てば、乱馬はまるで捨てられた犬のような表情をする。
馬鹿だなあと、それでもやはり愛しいなあとあかねは思い、目を細めた。
「私は乱馬のこと、好きじゃないの。『愛してる』の。」
見開かれた茶色の澄んだ瞳に、自分が映ったのがあかねは分かった。
勿論今の自分の瞳には彼だけが映っているだろうことも。
そしてこの日を境に二人の瞳に二人以外のものが写ることはないだろう。
彼女の言葉に、世界は確かに輝いた。
end