「■聖なる夜に」
聖なる夜には、きっと素敵な事がおきると思うの。
それは、小さな頃からの憧れでもあったりして。
今日は、クリスマスイブ。
クリスマス当日は家族でクリスマスパーティーをするのが、我が家の習慣。
だから、乱馬がデートに誘ってくれたの。
課題を手伝ってくれたお礼だって。
柄でもないわよそんなこと。
私と出かけたかったって、素直に言えばいいのに。
これは自惚れ?
ううん、きっと違う。
確信は持てないけど、最近の私たち、良い雰囲気のような気がするの。
「あかね、準備出来たか?早く出ねーと電車間に合わねぇぞ。」
「うん、バッチリ。」
只の通りでも乱馬と歩くなら、それは魔法の通りに変わる。
全てがキラキラ輝き出して見える私って、ちょっとロマンチスト。
「ほら。」
ぎしっという擬音が聞こえて来そうな面持ちで、乱馬は私に手を差し出してくれた。
これも、聖夜の魔法かしら?
私はその手をそっと握る。
「…手を繋ぐのって、久しぶりね。」
そう私が呟くと、乱馬は決まって真っ赤になり、そっぽをむく。
それは私も同じできっと今、私の頬は赤いんだろうなってしみじみと思った。
私たちは基本的に素直になれない。
悪い意味でも良い意味でも、似てるの。
お互いに意地を張っちゃったりするんだけど、最近は相手が思ってることが分かるようになってきた。
自分が、そうであるから。
お店のドアを率先して開けてくれたり、今日の乱馬は紳士的。
何時もの乱馬も好きだけど、たまにはこういうのもちょっと嬉しい。
所詮学生のデート。食事だって大人な雰囲気の所には行けないけど、それがいいの。
「なあ、この後どこ行く?」
昼食を食べながら乱馬は私に尋ねた。
「アイススケートとかは?」
「…それは却下。」
今日の紳士的な乱馬にしては珍しい。
どうしてよーっ、て駄々をこねる私に、乱馬は少しだけ困った顔をした。
「嫌なこと思い出すからだよ。」
理由があまりにも可愛すぎて思わず笑ったら、何だよってちょっぴり拗ねた乱馬。
結局その後ボーリング場に行き、ニゲームプレイした。
でもニゲームとも負けちゃって、悔しかった。
もう一回!ってせがんだけど、乱馬には受け入れて貰えなかった。
「勝負は勝負だからな。」
相変わらず、乱馬の負けず嫌いは変わっていない。
でも、私だって乱馬に手加減してもらって勝ちたいとは思わないの。
私にだってプライドがあるもの。
「じゃあ、次はカラオケ行こう!」
乱馬は渋々といった表情だったけど、承諾してくれた。
「どっちが高得点とれるか勝負ね。」
乱馬が勝負という言葉にこだわっていることは知っている。
予想通り、乱馬はその勝負に乗っかってきた。
「くっそー!!あと一曲!」
「だーめ!勝負は勝負でしょ。」
私がボーリングの際に言われた言葉をそのまま引用すると、ちぇっ、て乱馬はそっぽを向いた。
◆◆◆
「今日は楽しかったね。」
帰り際に、私たちは公園に寄り道していた。
イルミネーションでドレスアップされた木々が、昼間とは違う雰囲気を醸し出している。
人気はあまり無く、まるで私たちの為に用意されたステージみたい。
「今日の勝負は、引き分けね。」
「は…?」
「勝負よ。ボーリングは乱馬の勝ち、カラオケは私の勝ちでしょ?」
私が上機嫌に言うと、乱馬は首を振った。
「…何よ、自分の負けは認めない訳?」
「そうじゃない。」
顔を覗き込むと、乱馬は真剣な表情をしていた。
「…俺から折れるよ。お前の勝ちだ。」
「え…?」
乱馬の言葉が理解出来ずに、私は固まる。
「ずっと、俺たちは勝負してたな。」
「ちょっと、何言って…」
「好きだよ。」
え…?
私は目を大きく見開く。
「本当は、ずっと前から好きだった。…最初っから、お前の勝ちだよ。」
その瞬間、ふわりとした浮遊感に襲われる。
私は幼い子供のように、乱馬に抱えあげられていた。
涙で、乱馬の表情がよく分からない。
感動して、言葉が出てこない。
「…あかね、キス…していいか?」
乱馬の問いに、私はコクンと頷いた。
華やかなイルミネーションを背景に、重なる唇。
――聖なる夜には、きっと素敵な事がおきると思うの。
「…私も、乱馬が大好きよ。」
…それは、小さな頃からの憧れでもあったりして。
end