「■鼓動(YOUKI様リク)」
帰路を歩く私の足元に、つむじ風が吹く。
その風に巻き込まれた枯れ葉が舞った。
秋は、なんとなく淋しい。
青々と茂っていた葉が、自分たちの役割を終えたと言わんばかりに、次々と散ってゆく。
だからなのだろうか、無性に感傷的になってしまうのは。
いや、違う。これは単なる言い訳だ。秋のせいだとこじ付けているだけだ。
ー事故でありながらも髪を切ったあの日、ようやく辛い恋から抜け出せたと思っていた。
東風先生のことを吹っ切ることが出来たから。
しかし、再び辛い恋をすることになってしまうとは。
「なんて学習能力が無いのかしら、私。」
一人呟いてみるも、勿論慰めの言葉が何処からか聞こえてくるわけでも無く、寂しさといったものは消えてくれない。
乱馬は何時もシャンプーや右京に追いかけられ、迷惑だと言いながらも内心嬉しそうだ。
先ほどもそう言いながら彼女達と何処かへ消えてしまった。
乱馬はきっと、一人の女性に縛られたくないのだろう。
要はたくさんの女性の好意を嬉しく思うタイプなのだと思う。
たまに私に優しいのも、きっとその考えから来るものなのだろう。
私は許嫁というのは名ばかりで、乱馬にとってシャンプーや右京と横並びな存在かもしれない。いや、むしろそれ以下。シャンプーはかわいいし、右京は彼の幼馴染だ。彼と出会ったのは私が一番遅いのだから。
愛されることより、愛することの方が幸せなのだという事を、何処かで聞いたことがある。
それは果たして本当なのだろうか。
私にはそうは思えなかった。
愛する事に疲れたのだ。
たまには愛する人に愛されたいのだ。
シャンプー達みたいになんかなりたくない。
…乱馬のことなんて忘れて、私だけを好きになってくれる人を好きになりたい。
そう心に強く誓って、私は帰路を早足で帰った。
◆◆◆
「あのよー…あかね、俺が悪かったって。機嫌直せよ。」
夜、乱馬は私の部屋に来て言った。
「何で謝るの?」
私は冷たい声音を吐く。
「おあいにくさま。私はシャンプーや右京たちみたいに、あんたの事を好きなんて言ってあげないから。」
「…どういう意味だよ。」
乱馬の顔が強張る。
「あんたはハーレムを望んでるんでしょうけど、そうはなってあげないっていってるの。私は、私だけを好きになってくれる人を好きになりたいから。」
そう吐き捨てたとたんに、無理矢理重ねられた唇。
「…無駄よ。シャンプーとかに何時もしてあげてるんでしょうけど、私は騙されたりしないから。」
――嘘。本当は凄く嬉しい。
でも、心は明かさない。それこそ乱馬の思う壺だわ。
「…本気でお前、俺がそんな男だと思ってんのかよ。」
突然聞こえた声に、私は顔を上げた。
「だって、そうでしょう?許嫁だって、本当は厄介だって思ってるんじゃないの?許嫁がいるなんて、他の女の子にはマイナスポイントにしかならないも…」
「違う!!!」
大声で乱馬は叫んだ。
「違う…俺が好きなのは、あかねだけだ…!」
絞り出すようにして乱馬は言った。
――私の頬に滴が滑る。
「嘘よ。」
「嘘じゃねぇ。」
即座に返された言葉。
「…だって、シャンプー達に追いかけられて、乱馬何時も嬉しそうだわ。」
「それは、お前がヤキモチ妬いてくれるのが嬉しいからだ。」
涙が、更に溢れる。
乱馬に施され、乱馬の左胸に宛がわれた私の手のひら。
手のひらに伝わる鼓動は、とても早くて。
「こんなにもドキドキしてるのは、お前だからだよ。」
乱馬の照れたような笑顔に、私は言葉を忘れてしまう。
「…あかねは、俺の事好きになってくれないのか?」
――確信犯だ。
いたずらな笑みを浮かべながら乱馬は私に聞く。
でも、答えてやるのはちょっぴり悔しいから。
「私の鼓動を聞けば分かるわよ。」
「え。でもよ…。」
「ほら、早く。」
やっぱりうろたえた乱馬。
おそるおそる乱馬は、私の左胸に手を宛がった。
乳房に、乱馬の手のひらの感触。
「…鼓動、早いな。」
乱馬の顔は、真っ赤だ。
そして、離れた手のひら。
「…乱馬ってエッチね。胸じゃなくても鼓動は確かめられるのに。」
「え゛。」
私の言葉に、乱馬は硬直して更に赤くなった。
「ち、違う!そんなつもりじゃ…!」
「はいはい。分かってるわよ。」
なんだか、しょげてる乱馬は可愛かった。
そして、私たちはどちらからでもなく、お互いに引かれ合いながら。
――甘い、甘い、キスをした。
end