「あかね!!」




其処には、幼いあかねがいた。




「ぐすっ…お兄ちゃん、だれ…?」






あかねは俺に気付いた様で、首を斜めに傾けた。


そうか、この頃のあかねはまだ俺を知らない。



とにかく俺は、つじつまを合わせることにした。




「君を、よく知っている者だよ。」




「私を…?」



俺はコクンと頷いた。




「あかねは何で泣いているんだ?」


その問いにあかねは顔を上げる。


「あのね、お母さんが死んじゃったの。」




大粒の涙が、大きな瞳から次々とこぼれる。




「私が道に飛び出したりしなかったら、そんなことにならなかったのに。」




「うん。」




「だからね、お父さんもお姉ちゃんも私がお母さんを殺したから、私の事嫌いになっちゃったの。」




しばらくの沈黙の後、俺は言った。





「あかねが殺した訳じゃないだろ?…それに、おじさん達があかねの事を嫌いになったって確証は何処にあるんだ?」




「…。」





あかねは俯く。




「でも、愛されてる確証も無いわ…。」

「本当にそう思うか?」



俺は間を与えず言った。




「愛してなかったら、おじさんはあかねに格闘を教えたりしない。かすみさんは毎日ご飯を作ったりしない。なびきだってそうだ。」

その言葉に、あかねの姿が少しずつ成長を始める。




「それにね、東風先生はかすみお姉ちゃんが好きで、私の事なんて好きになってくれないの。」



その言葉に、おれ自身苦い気持ちになったが、あかねの心を救うためだ。


背に腹は代えられない。



「…東風先生からは、あかねが望んだ形では愛され無かったかもしれない。でも、形は違えどあかねの事を愛してるよ。」



そして、俺がよく知るあかねの姿になったとき、俺は言った。






「…そして俺は、あかねが望んだ形で、お前を愛してる。」






あかねは目を見開いた。



「貴方は、誰――?」



その問いに、俺は微笑む。




「俺はお前の、許嫁だよ。」




――その瞬間、俺は眩い光に包まれた。




あかねの笑顔を、最期に。




◇◇◇







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