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そして、葬式後だと思われる天道家の居間が写し出された。
ぽっかりと空いた人の温もりという穴は、なかなか埋まるものじゃないってこと位俺にだって分かる。
今ではあんなに明るい雰囲気の居間が、こんなにも…と感じるほど悲しみの雰囲気を醸し出していた。
そんな中、あかねは押し黙ったままの姉や父をじっと見ていた。
(きっとお父さんもお姉ちゃん達も、私の事憎んでる。だって、私がお母さんを皆から奪ったんだもん…。)
「!!!」
俺達は耳を疑った。
「あかねは、あの時そんなことを思っていたっていうの…?」
なびきの手は、震えていた。
『お父さん、私格闘始めようと思うんだけど教えてくれる?』
そんな空気の中、幼いあかねはおじさんに言った。
(これ以上、皆に嫌われないようにしなくちゃいけない。お父さんは道場の跡取りが欲しいって言ってたし、お姉ちゃん達はきっとやりたくないって思ってる…。私が継げば、少しは許してくれるよね…?)
そんなあかねの気持ちも知らず、おじさんは悲しみの顔から無理やり笑顔を作って、いいよと言った。
「…あかねは、母親が居なくなった寂しさからそれをまぎらわすために格闘を始めたいと言ったのだと思っていた…まさか、こんな理由だったなんて思いもしなかったよ。」
おじさんの目尻には涙が溜まっていた。
「――あかねは、私達に嫌われたくないがために格闘を始めたってこと?」
なびきも同様だった。
家族の問題に、部外者の俺がどうこう口出しするものではない―…。
俺と東風先生は、そんな二人を見守る他無かった。
あかねが格闘を始めた理由がこんなに悲しい理由だったとは思いもよらなかったし、知りたくも無かった
そして幼稚園を卒園し、小学校に上がったあかねが写し出された時、急に空間が歪み始めたかと思うと、いきなり東風先生が空間から消えた。
「なっ……!」
おじさんやなびきは慌てていたが、俺にはその理由が何と無く分かっていた。
きっとこの頃、あかねが東風先生に恋をしたから――。
あかねは東風先生にこの心を知られたく無かったからだろう。
その為、東風先生はこの空間を追い出されたのではないのか。
俺はそう考えていた。
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