別に雅治に不満があるわけじゃなかった。ただそう、いうなれば不満があるわけじゃなかったのが不満だったのかもねー。

すぱすぱ、煙草を吸う真似をしたら、赤也がそれだけッスか?ってクリクリしたお目めで私をみた。その姿、なんか付き合いたての雅治に似ている。次は赤也落とそうかなー、なんて。

そうそれだけ。気だるい声で答えると赤也の目が丸くなる。あははっ、ヤバい、本当に雅治そっくり。やっぱり後輩だから似るのかな。

私が雅治と別れてからもう3日だ。あんなに尽くしてくれた雅治を切ったことで私の席はボロボロ。予測出来たし別にいいけど。だいたい、雅治と付き合った時もこんなんだったし、馴れたというか。なんか日常化してたやつが、少しだけ多くなったって感じで私は机が余っている二年生の教室へ。それで顔見知りの赤也に捕まり今に至る。みたいな感じだ。

とりあえず、帰っても三年女子の人相が怖いし赤也の質問に答えつつ時間を潰す。



「じゃ、じゃあ、先輩これからどうするんッスか」
「進学する」

「そんなこと聞いてるんじゃないんッスよ!だから」

「いいじゃん。大体、雅治に絡まれて今までもこんな感じだったし?私からすればもう半年もすればこんなのなくなると思うし」

「そ、そんな……」



眉が下がる赤也。とりあえず同情を売ってしまったらしい。うーん、赤也と付き合ったら陰口倍になりそうだな。うん、止めよ。ここは無難に受験終わりまでか、それかもっと賢くて周りを誤魔化せる人間にしなきゃな。


「ま、とりあえず、雅治とは別れたし、テニス部出入り許可は明日にでも取り消してくるから」

「えっ!いいじゃないッスか!来てくださいよ!部活ぐらいでしか会えないんですから!」


今日だって奇跡みたいなもんッスよ。と赤也がいう。まあ、そうなんだよね。赤也って、普段オネエサマとか同級生とかに囲まれて軽くハーレム状態だからこんな感じではなかなか会えない。会えたとしても周りが煩いからなかなか喋れないし、その点テニス部室だと女子とか入れないから気楽。幸村くんが救済ルールで彼女だけ許可取りオッケーってなっているし。でももう雅治の彼女やめちゃったから終わりなんだけど。

結構、居心地良かったからそこは残念だな。

幸村くんとかやけに優しかったし(まあ雅治と付き合っていたからだろうけど)。付き合うんだったらやっぱり幸村くんあたりがいいな。処世術とか上手そうだし、雅治と同じ過ちを繰り返しはしないはず。高嶺の花だけど!


「いやさ、真田に言われたんだよね。そろそろ幸村が追い出す頃だぞ、仲直りしないのかって。あの堅物に心配されるのも気がひけるし、柳にどうか助けて下さいってお願いしたら『お前、俺がこんなドーナツで精市に掛け合うとでも思っているのか』って言われたし。まあ、あれ、けじめってやつじゃんそういうの。だったらしょうがないなーってなってさ」

「うーん、柳先輩ッスか」


あの人怖いッスからね。と赤也は俯く。この頃気付き始めたけど柳と赤也ってそんなに仲良くない。むしろ、比呂士と赤也の方が仲がいいくらいだ。

柳、取っ付きにくく赤也に接しているからだろう。三年生の自分が赤也を甘やかしてはいけないと自制している感じ。かわりに真田が赤也にあまあまだ、人相怖いけど。



「でも、柳先輩に俺が頼み込めば幸村部長に掛け合ってもらえるかも…」

「ねえ。なんでそんなに私を居させたいの」



私、赤也になつかれるのは分かるけど、赤也に好かれるようなことはなかったはず、なんだけど。


「えっ…あ、いや、その」

「なに、怒らないから言ってみ」

「……、あのー。本当に怒りません?」

「たぶんね」



すぱすぱ。また煙草を吸う真似をすると赤也が私の後ろを指差しながらガタガタと真っ青な顔でいた。

こりゃ、酷い。おもしろー。手を叩いて笑いそうになったら赤也が後ろ、後ろ後ろ、と顎でしゃくった。




「げ…」

「げって」

「いや、だってあれ、元カレだよ。気まず」

「……先輩」



後ろを振り返るとなんともいえない顔をした雅治がいた。とりあえず五メートルは離れている。私の背後にたっているのは文句をいうに値するけど、元カレにそういうのってあんまり、だよね。



「なにやってんの、雅治」

「……なにって、…なんにも」

「アンタ、どんだけ死にそうになってんの? 死体みたいに顔色悪いけど?」

「べ、別に」

「ふーん。じゃあいいや、で、赤也なんだっけ?」

「いやいや!仁王先輩にそれだけッスか!」

「うん、それだけ」



赤也が頭を抱えた。

ワカメ頭の髪がぐっしゃりなっている。心なしか増えているような……。流石、増えるワカメ。流石、水を吸うと増えるワカメ。



「仁王先輩!仁王先輩は先輩にそれだけなんですか!」

「……え。いや、俺は」

「え?なに、雅治言いたいことあるの?」

「……いや。全然なか」

「うん、だろうね。じゃあバッチリ、赤也。話し続けよ」

「え、えぇ!!仁王先輩!ちょっと、ちょっと!あんたはなにをやっているんッスか」

「別に」

「チキンめ!」


いきなり叫んだせいで赤也がゼイゼイいってる。凄いキーンってなった。キーンって。これって響いたんじゃない? ってことは、先生にみつかる。じゃあすぐ話をやめて教室帰ろ。


「あかやん」

「…なんッスか?!」

「あんたが叫んだせいで先生来てるんで、とりあえず一旦解散しよ。またいつか会える。今日は最後の部活訪問するから、その時にでもね」

「………本気でもう最後にする気ですか」

「そりゃあね、もう意味ないし?」

「俺は……寂しいッス」

「そりゃ、残念だった」

「全然、先輩はそう思ってないッスよね」

「だって私、赤也のことタイプじゃないし」


好きだけど、恋慕出来ない好きなんて青春中の私にはいらないからって言ったら赤也の目が赤くなった。これが噂のデビル化。

じゃあね。手を振ると後ろの雅治が息を飲むのが分かった。





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