過去編




愛鶴からの返信は結局こなくて、私が幸村君の試合の場所に行けたのはもう試合なんてとっくに終わりきった夜のことだった。
痛いと悲鳴をあげる体を引きずり、人目につかない道を選びながらつくのは至難の技だったけど、どうにかたどり着いた場所。
もう星が空一面綺麗に瞬いていて、あーあと涙が出そうになる目をぐっとこらえた



「どうしてこうなったのかしら」


ただ応援にきたかっただけなのに



頭から出ていた出血は止まっている
それでも頭の中はぐわんぐわんと跳び跳ねていた


「……あ、雨だわ」


ぽつりぽつりと昼間に降らなかった雨が体に降り注がれる。うたれた体はどこもかしこも痛くて、私は声を潜めて泣いた










『愛鶴』

携帯がメールを受信したのは明後日のことだった

メールでは愛鶴はテニス部に頼まれてアイスを買いにいっていたんだという。そのあとテニス部のみんなに誘われて遊びにいっていてメールの返信が出来なかったのだと、私は大きく安堵した。もしかしたら愛鶴も私と同じ目にあっているのではないかと思ったのだ。でもテニス部のみんなといるのだったらそんなこともないでしょう。胸の中に潜んだ不安がすうーと抜けていく。
愛鶴にはそれならそうとメールを返してくれたらよかったのにと返した。愛鶴はいつもの通り申し訳なさそうにごめんというメールを返してきた

いつも通りの愛鶴に少しだけ笑ってしまった









「きゃははははははは」

「ばーか、なんで学習しないのかなぁ?」

「あれなんじゃないのぉ? ほら頭のいいやつって、頭かたいっていうじゃん?」

「それにしてもさぁ、なんでわかんないのかなぁ?」

「そうそう騙されてるってことをさぁ!」



なにも考えなければ、大丈夫
なにも聞こえていなければ、大丈夫
なにも感じていなければ、すぐに終わる

目を閉じて、痛みにたえる、耳を振るわせる下卑た声に心を塞いで早く終わって欲しいと願った


じゃないともしかしたら愛鶴が来てしまうかもしれない
こないだと同じようにテニス部の人達に止められてさえいれば、愛鶴がこんな思いを知ることもない、されることもない

だけど、もしかしたらこないだみたいには止められていないかもしれない。優しい子だから、私を待たせちゃいけないって急いで来るかも知れない

早く終わって欲しい

きっとこんな姿見られたら私は愛鶴と一緒いられなくなる
弱い私は見せたくない

頼られる人間でありたい


体は痛くない
けど心が気がつかれそうだと痛い
痛い
痛い




私はまたボロボロになった体を支えてテニスコートを目指した









  
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