過去編




「はあー」

ある夏の日の放課後、明日で学校が夏休みに入るという日に私は屋上のタンクの上に寝そべっていた。


もう中学生三年生。
大学附属なので、立海高校に進学するとは決めてはいるが、まだまだ私は将来の夢が決まらないでいた


幸村くんはあんなにテニスに一生懸命なのに

私はなににも夢中になることなく、学校生活を過ごしている


彼はを見ていると、切迫感が押し寄せてくる



「私は何がしたいのかしら」


一人そう呟いても帰ってくるはずなんてない。
虚しいわね……。



そういえば愛鶴が丸井くんと付き合い始めたらしい。なんでも、丸井くんがグングンきたから断れなかったとかなんとか



私も恋とかしてみたらなに変わるのかしら





空を見上げてみる
青一色の青空
きっとこの青さは海の色なのでしょうね
なんて詩的なことを考えていると、この青一色の青空に似合わないバチンっ!というものを叩いたような音が聞こえきた。

な、なんなのよ!
そう思い、聞こえてきたタンクの下を伺うと、女の子が鬼の形相でなにかをみていた


「サイッテー!地獄に落ちろ!この浮気魔!あんたなんか彼氏じゃない!」


悪態をつくなり、駆け足でこの屋上からいなくなった女の子。
な、なんだったのよ?

とりあえず、破局の場面に遭遇したのは理解したけど、夏休み前に破局って……。

いろいろと大変なのね、と思いながら、元の位置に戻る。


「おまえさん、見なかったふりっていうのはいかんぜよ」

「……!」



タンクの下からの声
びっくりした
声をかけてくるだなんて思わなかったのに
それに、かわった訛みたいなものがあるみたいだし
よくさっきの子、こんな人を好きになれたわね



「……他人の破局シーンをみたときには普通知らないふり、見ないふりなんじゃないのかしら?」

「別にこんなのいつものことじゃ、一々日常で知らないふりされんのもめんどくさか。見たときは見たと堂々としてて欲しいナリ」

「堂々って……それはそれでなんだか私が嫌なのだけど」


というか、それは覗き見していたのを堂々としておけってことなのかしら

それだったらごめんこうむりたいわね




「あー、いたっ」

「そりゃあ、あんだけ派手に叩かれていたらそうもなるでしょうね」

「手加減をしらんやつじゃ」

「あんたの彼女なんでしょう?」

「元カノじゃよ」

「残念だったわね。やり返せなくて」


直後、バカにしたような声があげられる。


「俺は、女を叩いたりはせん」

「今時男女差別は時代錯誤甚だしいわ」

「手厳しい女じゃな」

「あなたの元カノよりは劣るわよ」

「よういうのう」


よくそう幸村くんにも言われるわね。
でも、そんなにどきつくはないはず。
私はいきなり叩いたり殴ったりしないわ




「ねえ、浮気魔さん」

「その呼び方はどうかと思うのう」

「じゃあ、なんて呼べばいいのよ」

「フーディニ」

「馬鹿言わないでくれるかしら。それは偉大な脱出王の名前よ」

「んじゃ、好きに呼びんしゃい」

「マクベス」

「は?」

「マクベスって呼ぶことにするわ」

「マクベス……シェイクスピアのか?」

「そうそう、将軍のね。まだ全然読み進めてないんだけど」

「………綺麗は汚い」

「汚いは綺麗」

「勇敢な英雄、か」

「『今日ほど汚くて綺麗な日は見たことがない』」

「?」

「マクベスはそういうの。ほら、空を見てみて」

「曇っとるな」

「さっきまではあんなに綺麗だったのに、灰色を垂らしたように曇りになってしまったから。綺麗は汚い、汚いは綺麗。この日にぴったりじゃない?だから、マクベス」

「………偉大な王の名を貰うとはのう」

「王?マクベスは将軍よ?」

「……ああ、そうか、続きは読んでないんじゃったな」

「?」



沈黙が降りる。
でも、それは心地よくて、居心地がいい空間。


「のう、また会えるか」

「さあ?どうかしら、毎日屋上にいたら或いは会えるかもしれないわね」

「ふーん」




べろり、ねっころがると、空が見えた。
綺麗な灰色の空。
綺麗は汚い、汚いは綺麗
下にいるだろう彼を思いながら、目を閉じる。
















  
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