She Side
テニス部の中で私をよく知らないのは、この人ぐらいだろう。
「お早う」
「ああ。早いな哀川」
「あなたこそ、いつも早すぎよ。今日はテニス部の部活ないのになんでこんなに早くに?」
「む、いつもの日課でな」
「だからって、こんなに早くきてもやることないでしょうに」
午前6時前。いつものように下処理をしたあと、忘れていたノートを取りに教室にはいったら彼、真田弦一郎がいた。同じクラスの彼はテニス部副部長であり、風紀委員長でもある。
「哀川こそ、どうしてこんなに早くにきたのだ?」
「私はノートを置き忘れただけよ。取りにきたの。また一回家に戻って勉強しなきゃ」
「そうだったのか、では一応先生方に言ってから帰るようにしろ。一度登校したら、帰るときにはそういう規則になっている」
「ええ、わかっているわ。先生たちに話してから帰るわよ」
「うむ」
低い渋い声を出す彼に少し笑ってしまいそうになる。なんだかいくつか年上の先輩みたいだ。この人が同い年なんてそんなの本当なのかしら。
「そういえば、精一が言っていたが、哀川はテニス部のマネージャーになるのか?」
「……そんなはずないじゃない、あなただって知っているでしょ。私はこのクラスの体育の成績汚点よ。テニス部に入るだなんて恐れ多いわ」
「そうなのか……。いや、幸村が少し喜んでいたものだったからな、アイツもまだまだ、たるんどる」
「いいじゃない、少しぐらい喜怒哀楽があったって。まあ、そんなにマネージャーが欲しかったのかは別にして、だけどね」
「うむ……」
そういえば、幸村くんは愛鶴のこと使えないと称していたがそれは本当なのかしら。
使えるのならば、私を呼ぶ必要はないのだろうけど
「雪羅さんって、マネージャーとしてどう?」
「……? 何故だ?」
「いえ、マネージャーならば彼女がいるじゃない。私を誘わなくなっていいだろうに。なにか不具合でも出たのかしらって」
「雪羅は、そうだな。普通だ」
「普通?」
「可もなく不可もないだ、たまに遅れてくることがある、たるんどるがな」
「………そう」
普通ならば、いいんじゃないかしら。
どうしてマネージャーを増やそうだなんて今頃になって思ったのかしら