She Side






「俺ってよぃ」


それは赤い天才くんが発したセリフ、どうにも聞き覚えがあるわね。そう思ったら、そういえば昔聞いたことがあると、思い出した。



「お前のこと嫌いなんだよぃ」

「あら、知ってるわよ」


昨日の疲れ(テニス部に連れていかれたせいで)が残っているなか、放課後、呼び止められた私は、死にそうな顔をしていたと思う。昨日の百合の香りが服にまで染み付いていて、なかなか落ちなかったのが一つの原因だ



「昔もそんなこと言われたもの」

「ああ、俺も言った覚えある」

「なんでまた言うのよ」

「なんでだろぃ?」

「私が知るか」


テニスラケットを持ってないところを見ると、なるほど今日は部活はないようだ。

幸村くんが途中で私が帰るわと言ったときにじゃあまた明日もきてよと言わなかったのはそういう意味があったのね


「今日、部活ねぇんだよぃ。テスト前だから」

義理堅く説明してくれた天才くんに感謝しながら、じゃあなんで話しかけたのよ、と思ってしまった。


「部活ってテスト前になると活動しなくなるのね。初めて知ったわ」

「今まで知らなかったのかよぃ」

「ええ、ずっと帰宅部だったから」

「珍しい奴だぜ」

「そうかしら」



彼との会話は、いつもなんだか淡白になる。それは相手が私のことを嫌っているからなのか、それとも私が彼らを苦手としているからなのか、どちらなんだろう。

たぶんどちらともだけど



「昨日の部活」

「?」

「雪羅の奴、泣いてた」

「そう」

「嘘泣きだろうけどよぃ」

「たぶん、そうでしょうね」

「あいつ、なんで変わっちまったのかな」

「私が知るわけないでしょう」

「だよな」

「四年前から私とあの子の付き合いはなくなっているんだから」

「けどさ」

「なによ」

「俺、お前らは本当は裏で仲良くやってんだろうなって思ってたんだよぃ」

「なに、それ」

「妄想?」

「妄想って、いや、妄想だけど、よくあの状況でそんなの思えたわね」

「なんでだろうな」

「知らないわよ」

「でもさ、たぶんお前が、追い詰められてるように見えなかったから。かも」

「それって、どうやったらそう見えるのよ」

「わっかんねー。あのときは、俺もどうかしてたのかもな」

「まあ、そんな時期だったしね。中学生なんてそんなもんでしょ」

「かも、しんねぇ。それに雪羅のほうがお前よりも悲しそうだったから」

「そう」

「俺は、お前のこと嫌いだ」

「知ってるわよ」

「お前は?」

「どうしたのいきなり」


いつの間にやらよりかかっていた窓から少しだけ体を反らして、植物とか、配線コードとかが張り巡らせてある場所の横の窓をみた。
彼は窓の枠から手を伸ばして空をみていた。


「いいじゃん、答えろよぃ」

「なによ、それ」

「いいから」

「…嫌いじゃないわよ、好きでもないけど」

「なんだよ、それ」

「わかんないわよ」

「おかしな奴」

「あなたもね」







私も彼と同じように空をみる。彼みたいに仰け反ってじゃないけど、枠に手をかけて、空をみる


気持ちが悪かったはずの体調が少しだけよくなったように思えた
















  
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