劇中のマクベス


息をするのが辛くて、湖に潜りました。
そこであなたは微笑んで言うのです。
愛しています……………。

「これはないわ…………」
「だよね………………」

クラスの出し物が正式に劇になったはいいが、下書きとして出された脚本があまりにも駄作で口を引きつらせる。マクベスが別のものに変換されていたというか、どこの中学生のポエムだろうか、内容は薄っぺらく、原作を読んでいないのが丸見えだ。魔女さえ出てきておらず、マクベスも容姿が整っている事を全面に出し過ぎて彼の人となりが全く書かれていなかった。

「誰が作ったのかは知らないけど、マクベスが目立ち過ぎじゃない? マクベスが出てないところがないんじゃないのっていうぐらいよ。流石に幸村君でもここまで台詞覚えられないと思うし、マクベスの登場シーンを削って夫人のシーンをつけた方がいいわね」
「それが……」

西置さんが口をまごつかせる。

「まだ夫人役が決まってなくて……」
「えっ」

それは寝耳に水だ。どうするのだろうか、発表まであと一ヶ月もないというのに。

「どうするの? 誰かいないの?」
「居るには居たんだけれどもね、その……幸村君にふられちゃったから」
「……ああ」

流石にふられた人を夫人役に抜擢するのも酷だものね。

「でも、どうするの?」
「それは……そのお」
「決まって、ないの」
「……うん」

そんなんで大丈夫なのかしら。疑問に思いながら、首を傾げると西置さんがパチリと手と手を合わせこちらをみてきた。いやな予感しかしないわ……。

「お願い出来ない?」
「私に言っているのよね?」
「うん、お願い」

逃げるように視線を逸らす。どう考えてもおかしい。私なんかより適任がいるはずだ。
だいたい私は教室に入るようになってそんなに立っていない。
そんな私に大役がくるなんて誰かの陰謀としか思え得ないわ。
そう思って目を伏せてみると思い浮かぶのは幸村君だった。彼ならばあり得る。そういえば、好きな子がいると言っていた。もしかしたらその子に義理だてしているのかもしれない。じゃあその好きな子に頼めばいいのにとも思ったが、クラスが違う可能性があったので却下になった。だからって、なんで私を…………。昔馴染みだからだろうか。
迷惑、だわ。
でも、断れない。断ることなんて出来ない。やったらどんなことをいわれるか、分からないもの。

「マクベス夫人をやればいいのよね」
「! やってくれるの!?」
「ええ、そのかわり、なにか甘いものでも奢ってね」
「う、うん!」

嬉しそうに顔を綻ばせた西置さんを見て、これでよかったのだと自分を納得させた。



 
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