She side







「幸村君って、考え方が腐ったミカンよね」

「くさったみ…?!」


いきなりの言葉に、幸村君がこちらを向いた。
確かにおかしいこといったけど、そんな顔しなくても……。


「どういうこと? 俺不良になった覚えはないけど?!」

「いや、なんか腐ったミカンって言いたかっただけなの。他意はないわ。って、そうじゃなくて、アンタ、女子への対応がゲスなのよ。もしかして女の子が全員アンタの顔に興味あるとか思ってるの?」


目の前にいる幸村君は、自分に興味を示す女子への対応が酷い。
部活を引退したからか、生活にもゆとりがあるみたいだし、今まで部活があるからと断ってきた告白は意味をなさなくなった為、幸村君へのアピールは私から見ても目が余るくらいに激しくなっていた。

胸とかすりよられているのを見たときは女の子って怖いなあって思うものね……。
ああいう女子特有のものを押し付けられたら、なんか狡いって思っちゃうわよね
けして羨ましいとかいう意味じゃなくて。
私は別に標準サイズだし。

「それは、そうだよ」

幸村君の顔は、少し膨らんでいた。唇は尖り、ムッとしている。こないだも思ったけれど、年に合っていて可愛かった。これが常勝立海と言われた部長さんだとは思えない。


「顔は大切だからね。きっと俺が不細工だったら誰も振り向きはしないよ」

「テニスも出来なければね。まあ、たらればの話しだけど、でも幸村君、流石にアンタの顔がに興味があってっていう子はいないとは言わないけれど、少ないとはいえ、顔に興味がない子だっていると思うわ」

「例えば、誰?」

「昨日アンタに告白した子とか」


その子は中学時代から幸村君が好きなことが有名だった。三年間以上の片思いだなんて、辛いと思う。それをこの人は派手に振ったのだ。その子の告白場所も悪かったけれど、それにしても即、しかも盛大に皆に聞こえるように振った。しかも今日、真っ赤に腫れた目と窶れた顔に、掠れた声で教室に入ってきて無理して笑ったその子に幸村君は笑いながら挨拶した。空気を読めという視線を一身に浴びながら(その子の友達には睨まれながら)ニコニコとしていた幸村君をゲスと言わずなんと言うんだろう。
びっくりするぐらいの厚顔無恥ぶりに私が戦いたぐらいである。
その子は、確かにテニスをしている幸村君が純粋に好きだったのに。


「知らない」

「知らないって……」

「俺、知らない子に告白されたんだよ」


あ、と固まった。そう言えば私は中学の時から好きだったとは知っていたけれど、幸村君はクラスメイトというだけで特に仲も良くなかったと記憶している。高校でも挨拶程度だったし、きっとよく知らない相手なんだろう。
そんな子からいきなり告白される。しかも、断りずらい教室で。
視線を幸村君から外した。例えば私が真田君に告白されたらどうだろう。真田君には悪いけど、知らない人にいきなり好きだと言われて、じゃあ付き合おうとかなるわけがない。本当に真田君ごめんなさい。
幸村君も同じなんだろうか。説教染みたことを言ってしまうのは、他人に自分の気持ちを押し付けてしまっているだけに他ならない。そうだとしたら、悪いことをしてしまった。


「いつも振ると泣かれる」

ごめんなさいと頭を下げようとして、幸村君の哀愁漂う言葉に唇を止めた。幸村君の顔は泣きそうでもないのに、悲しかった。

「頭を下げると下げないでって言われるし、悲しそうにすると悲しくなるから止めてって言われる。振った後によそよそしくされるのは嫌われたかもしれないって怖くなるからって、言われた」

「幸村君」

「俺は、女の子の気持ちなんか汲み取れない。……分からなかった。どうなるかなんか分からなかったし、自分のしたことに責任を取れないでいる。いつも間違えだらけで選択肢を誤って、今も誤っているのかもしれない。でも、俺は告白されても応えられない」

途中、どこか目を遠くした幸村君は何を考えていたのだろうか。もしかしたら、昔あったことでも思い出しているのかもしれない。何を思い出しているのか、録に学校に来ていない私には分からないけれど、きっとその時辛い目にあったのだろうというのは知らなくても分かった。


「友」

久しぶりに呼ばれた名前に息を飲んだ。


「俺は好きな人がいるんだ」


悲しそうな目で幸村君はこちらを見据えている。まるで、私に告白の断りでも行っているような目線だった。


「その人は、やっぱり幸村君の顔が好きなの?」

「……どうかな、俺が勝手に好きなだけだから、顔さえ好きじゃないかも」

「凄い女の子ね。幸村君に好きになられるだなんて」

「ほんとだよ」


幸村君が好きな女の子、かあ。
想像出来るようでまったく出来ない。顔が綺麗な子だろうけど、幸村君の隣に居たら霞んでしまうだろう。ああでも幸村君より綺麗な子っていうわけでもないのかしら。幸村君が好きそうな活発で元気が良さそうなタイプ。幸村君が好きになったタイプ。
その人が幸村君の隣で歩いている。……やっぱり想像出来ない。
大体幸村君に恋愛感情とかあったのね


「自分で同意しないで。それにしても、幸村君ともあろう人がその女の子に告白してないとは何事よ」

「別に、いいだろ」


くいっと顔を背けた幸村君に疑問を感じつつ、流石の神の子も好きな人に対しては奥手なんだろうと、まあ下らないことを意味もなく考えた。







  
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