幸村精市




一つの大きな大会が終わり、夏が過ぎて秋になり、雪が降って、最愛の人がこない春がやってきた。もう随分と友の家には寄り付いていない。
友お母さんに会って、俺がやったことを話したときからもう半年以上が経過した。拒絶された俺は何も出来ずに脱け殻のようにテニスに没頭し、高校二年の個人大会で圧倒的な力を見せつけ、跡部に3ー6で圧勝した。
強くなった。自分でもその自負がある。
でも、その強くなったをかき消すような喪失感は未だ拭えない。友がいない応援席を見渡して、何度ため息を吐いたことだろうか。もう部長なのに、しっかりしないと真田にまた殴られる。

あのあと、友のお母さんに全てを話したあと、男子テニス部は荒れた。先輩達のことは公になり、学校説明会が開かれ、マスコミ規制はあったもののネット上では話題になり、大会出場も危ぶまれた。でも、大会に出場出来たのはことを起こした先輩達が全てを辞めたことと、友のお母さんが出場を望んだからだ。意図は分からないが、邪険にされていても愛着は持って貰ってもいたようで、場違いながらも嬉しく思った。家は追い出されたけれどね。

それから間もなく始まった全国大会で立海は二連勝し、優勝旗を片手にトロフィーを持ち、俺が一位、真田が三位、柳が四位という結果で終わった。


腑抜けた俺に真田は根性を直してやるとかなんとか言って殴ってきたり、柳によって友についての概要を冷静に判断してみたり、結局忘れられなくて自暴自棄になりそうになった俺を「だったら好きだと何故言わない!」と真田がまた殴ってきたり、柳がそれを見て確かに一理あると同意したり、して俺は友のいない青春を謳歌して。
そして結局、そんな青春に嫌気がさして、柳にある提案をしてもらった。


俺は字が汚いから、やっぱりこういうのはしょうに合わない。そういえばいつぞや見た蓮二の文字は流れるように綺麗だった。そうだ、代筆して貰おう。
書店で買ってきた自分で書き込み本にするという白い本を片手に、俺は原稿用紙へと向かう。


友はあの後また引きこもってしまったのだという、何故かは友しか知らないが、熱に浮かされた頭が水を求めてドアを開けたのではないかというのが蓮二の推理だった。俺がドアの前にいたのはただの偶然で、意図的に開けたわけじゃない。そう言われて、そうだよなと納得してしまった。そんな希望的なこと、俺だから開けてくれただんてあり得ないことあるわけがない。
俺は甘すぎるよなあ


原稿用紙を合わせる為に縦にして机でトントンと揃える。
一度読み直して間違いがないのを確かめ、俺は携帯を手に取った。
相手は柳蓮二。
三回目のコールで出た柳は俺の話を静かにきいてくれた。

「文章か」

「うん、友の部屋には沢山の本があった。きっと本を読んで気をまぎらわしているんだと思う」

「……文章ならば読んでくれるか?」

「やってみないと分からない。でもきっと可能性は高いと思う」

そういうと柳はそうか、分かったと一言いい承諾してくれた。有難いことだ。

俺は携帯を閉じて、出来上がった原稿用紙と真っ白な本を持った。


これは俺の心だ。
暈したところもいっぱいある。でも、紛れもない俺の言葉だ。
届けばいい。彼女にこの思いが。
目を閉じて、ゆっくりと開ける。

俺は荷物を片手に走り出した。







 
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