幸村精市




幸せになりたかったのだと思う。昔の俺は不器用なりにも、幸せになりたかったのだと思う。ただ友と一緒にいれれば幸せになれると、思っていたのだと思う。傲慢だった。限り無く傲慢だった。そして無知であった。どうしようもない人間だった幸村精市は自分が普通の恋愛をすることを喉から手が出るぐらい欲していた。その相手は誰でもいいわけじゃないだろうけど――友じゃなければならなかっただろうけど、でも、普通の恋愛なんて幸村精市に出来るわけないとは思わなかったのだ。なんていう無謀。なんていう怠惰。
幸村精市は知らなかったのだ。普通の恋愛を。そして幸せになる方法を。
そしてそんなこと俺には出来ないということを。

あたり前だよね。俺は、酷いことをし続けたのだから。友が学校に居られるようにと強制し続けたのだから。
高校とはいえ私立だからね、お金さえ積めば大丈夫だろう。キミ達のせいなのだから、肩代わりするのは当然だよね。そう笑って彼女達にお金を出させて、友が俺と同じ学年に無理矢理させ続けた俺は、そりゃあそうだ、普通ではなかった。だから、なのだろうか。理由は分からない。あの日俺があれを見付けなければ今の惨めな俺は変わっていたのかもしれない。いや、かもではない。変わっていた、だろう。俺はずっと昔のまま恍惚とした表情を浮かべて友の側にいただろうから、だから、かもなんかではない。まるっきりそうなのだろう。
でも俺は、あれがなかったほうがよかったとは思わない。思えない。例え今が後悔ばかりが残る場所だとしても、それでも知らなかったときよりはマシだと思っている。だって、俺はずっとそれを知りたいと思っていたから。どんなに辛いことでも、知っていたいと思ってしまっていたから。



俺にはきっと普通の恋など出来ない。したいとは思うけど、そんな無理なことは出来ないのだ。だから、俺は心の中に閉じ込める。俺の思いを閉じ込める。

でもね、友。
俺はキミといるだけで幸せで、キミと一緒に幸せになりたいと、そう思ったんだよ。







 
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -