五月一日 あるディスクの行方
「……なんじゃ?」
仁王雅治は後ろから聞こえてきた軽いに反応して振り返った。
そこにはいつぞやにみたDVD。おやと首を捻る。
確かこれは部誌に挟んでおいた筈だが。
そのDVDが入ったケースは部室の中にある棚、週刊テニス雑誌の中に潜り込むように入っていたのだろう。本とともに棚の真下に落ちていた。ケースには少しひび割れのようなものが見え、仁王は益々首を捻る。
「ああ、そのDVDは部誌の中に入っていたのでのけておいたんですよ。どうせ、仁王君か丸井君のでしょう?」
そう声をかけたのはタオルで汗を拭いていた柳生だった。柳生は眼鏡のブリッチを押し上げると困った目で仁王を見た。
「丸井のじゃよ」
「あまり悪戯が過ぎると嫌われますよ。大体きみはいつも」
仁王はブスリと顔を歪める。柳生は説教が長い。言うだけ無駄なのに、分かっていてねちねちと言ってくる。仁王はパートナーのことは嫌いではなかったが、説教すると長いのは嫌いだった。
「あーわかっちょる!わかっちょる!」
「はあ、わかっていないでしょう……」
こんぐらいの悪戯、悪戯じゃないだろう。いちいち煩わしいやつだ。そう内心思いながら、柳生の言葉を耳から耳へと流し、自分のロッカーの前で背伸びをする。その横で柳生は呆れた声を出した。
「……そういえば、この頃屋上によく行くようになりましたね。なにかありましたか?」
「べっつに、なにもなかよ」
このパートナーには嘘をつくことが出来ない。ペテンさえかけられないのだ。
悟られないようにしなければと仁王は視線をそらしながら答える。
その姿を柳生はとらえながら、はあと息を吐いた。
「中学三年のときに通っていたときいてはいましたが、高校になってやめたときいて安心していたというのに」
「うるさい」
「まあ、いいですよ。練習さえサボってくれなければ、ですが」
「あー、あーあー、相変わらず嫌味なやつじゃな!」
「男性に良い奴を演じていてどうするのですか」
「そんなんだから赤也に紳士じゃないと言われるんなり」
仁王はDVDを丸井のロッカーに乱雑に突っ込むと柳生に悪態をつく。子供っぽいと柳生はブリッチを再度押し上げると、益々仁王はぶすくれてラケットを持って部室を出ていった。
「………」
柳生は首を横にする。そういえばあのDVDはなんなのだろうかと。丸井のものだというのは分かったが、なくしたにしては丸井は探していなかったように思う。
大切なものではないのか……?
「柳生せんぱーい!ボール予備ありますー!?」
遠くから聞こえてきた後輩の質問に柳生は苦笑して、その疑問を心の中にしまい込んだ。いつか丸井に聞けばいいだろう。丸井は逃げることはないのだから。
柳生が出ていった後、乱雑に閉められたロッカーから、ガランと音を出してケースが落ちる。ちゃんとしめていなかったのだろう。丸井のロッカーだけが開いている形だ。
ケースからこぼれ落ちたDVDディスクがコロコロと円を描きながら回り、ぴたりと床にくっつく。
まるで水に飛び込む魚のような動きは少しの音をたてながら終息した。