過去編



私に何が残っているんだろうか。
病室の白さは狂いそうになるくらいで、私は動かなくなった利き手をみながらから笑いした。

といってもそこまで重症ではないらしい。手術をしてリハビリさえすれば今年度とは言えないけれど、高校生の夏ぐらいには復帰出来ると言われた

でも復帰したところで何になるんだろう。あの冷たい学校になにが、私の何が育てあげられるというのだろう。
学校のことを思い出すと赤い光と下卑た声が体を巡って、正常な思考が霞んでいく。ぎゃあぎゃあと泣きわめいて何回も痛い体を捩った。痛い。身体中が熱い。毒がまわっているように痛い。


入院一週間目、ついに癇癪をおこして利き手ではない方なのにお母さんに花瓶を投げて粉々にしてしまった。後悔と申し訳なさで、頭の中がいっぱいになっているはずなのに、心は真っ白で仕方がない。なにもない。いや、一つだけ、死んではいけないと、彼に言われたことだけが心の中に残っていた。死なない、死んではいけない。
でも動かせない利き手は私にしゃべりかけてくる。
死んだほうがいいと
君は嘘つきなのだからと

気が狂っているのは自分でも分かっているのに、死にたくなるのだ。腕が喚くから、疼くから、「死ね死ね」と。

階段からトンと押されたあの時、目の前の愛鶴の目。
腕が痛い。痛い。痛い。
睨み付けるような鋭い眼光。友達だったとは言わせないと目が語っていた。どこまでも私は友達が出来ない。出来るわけなんてなかったのに。
裏切られたと心が軋む。痛い。痛い痛い。




幸村君が見舞いにくるときはいつも数メートル離れてもらった。いつ自分が暴れ出すかわからなかったからだ。学校では私が不注意で階段から落ちたということになっているらしい。その学校側のお気楽さに怒りを通り越して呆れが膨らんだ。不注意で、ね。それなら、よかったのにね。思い出さないようにしようとする度に出てきてしまう愛鶴の顔。不注意で落ちたのならばあれはなんだというのだろうか。
幸村君は夏にはかえってこれるんだろうと笑った。私はきっと無理よとは答えなかった。夏に帰る気なんてこの頃にはなかったのに、何故だか彼には答えなかった。


それから手術が始まって、リハビリも始まって、幸村君には病室に来ないようにいって貰った。幸村君が居るとどうしても無理に笑おうとしてしまうのだ、その度に体に黒い靄がまとわりついてしまう。それを勘付かれるのは嫌だったから母を通して来ないようにと言って貰った。彼は学校をサボってまで来ていたので来なくなるのには渋ったらしいが手術などは自分も経験したことがあるからだろう、最終的には頷いてくれた。

幸村君が来なくなって一人でぽーっとしている私に喜んで貰おうと母がいろんな本を持ってきてくれたが、利き手の癖私の指ではページを捲りにくくて、本はたまっていく一方だった。

白い部屋に積まれていく本の山を眺めながら、静かに部屋の外を覗いた。
綺麗に晴れた燦々とふりつける太陽の光。
あの学校の屋上にはまだ彼がいるのだろうか。

屋上へと昇る階段。あのことを思い出してしまい、腕がズキズキと傷んだ。







 
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テーマ「人外ファンタジー」
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