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案外過ぎてしまうのは早いものだ。もうそろそろお昼過ぎ。人の波は体育館で行われる吹奏楽部の演奏に向かっている。それに逆らいながら、三年生の屋台をゆっくりと見て回る。焼きそばや綿あめなんかの匂いが鼻先で混ざって行く。何か食べないとと思うけれど、何を食べていいものかとても迷っていた。
仁王君に会ったら、まずご飯を食べに行こうと言わなくちゃ。待ち合わせ場所に付くとぺてん師さんとーー仁王君と目が合う。

「食べんしゃい」
近付いていった仁王君に差し出されたのは焼きそばパン。購買で売っているものだった。先手を取られてしまった。予想されていたのかしら。そう思うとなんだか悔しい。

「あなたは?」
「劇見る前に食べとるよ」
「劇本当に見にきたの?!」

へ、変な顔とかしてなかったわよね? マクベス夫人として悪い役は演じていたけれど。
頭を働かせて、自分がどんな風に映っていたか考える。なんだか恥ずかしい。
照れ隠しのように焼きそばパンの包装を外して口に運ぶ。生暖かくて、ほんのり青のりがきいている。
お、美味しい……! 美味しさのあまり顔に出ていたのか、ニヤつかれた。

「美味しいじゃろ」
「な、なんであなたがニヤつくのよ……」
「どうしてじゃろうな?」
ククと喉の奥で笑う仁王君が憎い。楽しそうにしているから怒るに怒れないじゃない。
焼きそばを食べ終わるとお茶が差し出された。蓋は空いていない。ありがたく頂くと、仁王君がどうすると問い掛けてくる。
「どっか行きたいとこあるか?」
「あ、なら、クイズ研の大会に参加しない? 結構面白いって聞いたわ」
「この時間じゃやっとらん」
「じゃあ、仁王君は何がしたいのよ」
「お腹すいとる」
ぎゅるるとなるお腹に思春期の恐ろしさを垣間見た。仁王君の誘うがまま、私は一年生がやっているカレー屋に足を運ぶ。

「ここは後輩がやっとるんじゃ」
笑顔でそう語る仁王君にはいつもの苦々しさというか、毒々しさがない。好青年といった感じで、モゾモゾする。ちゃんと学生なんだなあ。なんて思ったりして。
「仁王先輩!」
よって来た後輩は独創的な髪型をしていた。テニス部って個性的だわと再確認して、後輩を見る。あちらもこちらを覗き見ていて、だらしもなくポカーンと口を広げていた。
「仁王先輩の彼女さんやンスか?」
「なっ」
顔が熱くなる。彼女? 私が?
「おお、よく分かったのう」
「にっ、仁王君!」
からかっているのが分かって、顔を赤くしてしまったのが馬鹿らしくなった。クスクスと笑う仁王君はやっぱり歳に合った笑みを浮かべている。
「全く、嘘つかないでよ」
「すまんすまん」
「ちゃんと謝ってよね!」
ぷいっと顔を逸らすと、後輩さんがクスクスと笑った。それを聞いた仁王君がポカリと頭を殴る。そこから、仁王君が後輩を弄り始めたので、カレーを他の一年生に頼んだ。男の子ってこうあるわよね。熱中しちゃうと周りが全然見えてない。
一年生からカレーを受け取っても仁王君は後輩を弄り倒していた。しょうがないから机に座る。
仁王君がカレーを食べる頃には熱々だったカレーも生暖かくなっていた。後輩を構うの必死だった仁王君は謝りながら、次は、とお化け屋敷を指した。
いやいや、それはちょっと……。





 
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