Heサイド





こいつは、危機感がない。体に回された手は色を全く感じさせなくて、愕然としたほどだ。
改めてわかった。俺は、どうやら男扱いされていないようじゃ。
それが悲しいと思うのは、自分が男としての魅力がないと言われているような気がするから、ということにしておいて欲しい。じゃなければ俺がこいつに気があるようじゃ。それだけはないと信じたかった。女の色気というものがないやつじゃ。顔も別段可愛いとは言えない、普通の顔。性格だって、可愛くない。正直じゃないし、折れないし、曲がらない。生真面目というか、規則正しい。正直、見ている世界が違うのだと思う。あいつの世界はきっと綺麗だろう。確かに歪んでいるだろうが、それは過去のせいで視点が少しズレてしまっただけで、元は純粋無垢な世界に決まっている。
そんな奴を俺は好きになんかにならない。
息を吐いて、空気を吐き出す。自分自身の嫌なところが風に乗って何処かへ飛んでいき、吸い込む時に胸の中に戻ってくる。息を吸うのが苦しくて、喉がヒリヒリと焼ける。
心臓にその息が届いて、ズキリと音を立てて痛くなる。喉も心臓も散々だ。どうしたらいいのか分からなくて、静かに目を瞑る。休息が欲しかった。

抱きしめられていた部分に触れる。そこからは、やんわりとした温かさが感じ取れて、消えて行く温度を名残惜しく感じながらも、それで良かったのだと確信することが出来た。
誘いを断らなかったことは間違いじゃなか。
そう思う。怯えと不安に押しつぶされそうになっていた顔が承諾した瞬間花が開いたように華美だった。それを見たのだ。後悔するようなことじゃない。
間違いなんかじゃ、なか。
言い聞かせるように何回も繰り返す。でも、頭の中に出てくる自分が不幸にした彼女達の顔が消えんくて、責めたてられているように感じた。何を一人幸せになろうとしているのだ。そう詰られている気がして、忘れるために深く目を瞑る。
幸せになんかなれないのだろうか。
なっちゃいけないのだろうか。
ぐるぐると回る自己否定の言葉に頭を回しながら、吹き抜ける風に寒さを感じた。
もう、冬が来る。約束の日は近かった。




 
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