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衣装を作ることは女子にまかせる。という昭和から始まる考えは破壊されたらしい。隣にいる幸村君は危ぶむことなく、糸と針を使って縫って行く。それを見ながら行うと、自分が遅いわけでもないのに遅く感じられて、なんでも出来るイケメンは滅びろと悪態を付きそうになった。

「幸村クンってオトメンなの?」
「そううでもないよ、西置さんの方が縫い目綺麗だし」
「えへへ、そうかなあ?」
「そうだよ」

隣でいい雰囲気になるものだから脛でも蹴っていたい目に合わせてやろうかしら。
だめだめ、この頃疲れてんだわ。暴力的な考えが頭に浮かんでそれを消すように頭を振った。
美女に絡まれて鼻の下が伸び切った幸村君を背にして作業を開始した。


「どうだ哀川出来ているか」
「真田君、お疲れ様。どうだったのかしら、ちゃんと体育館取れた?」
「問題ない」

それなら良かった。これで正式に体育館で劇をやることになったのだから。
一息ついた彼は隣いいかと尋ねてきた。勿論構わない。了承すると、男性らしい筋肉質な体が私の肩にあたるか当たらないかというところで腰掛けた。男の子なのよね。幸村君を見てもそう思わないのに、真田君をみるとそう思ってしまう。これが外見的に男性らしいか、そうではないかの違いなのだろう。
幸村君は男の子の顔立ちをしているが、綺麗さが全面に出ている。絵画のような綺麗さは私にとって男の子という感覚をなくならせるのだ。その点真田君は荒削りなものの雄っぽさが抜けていない。眉間に寄った軽いシワが、会社勤めのサラリーマンの顔のようで、お勤めご苦労様といいたくなる。彼はまだ高校三年生なのだけれども。

「それにしても意外だったわ。まさかこのクラスが劇をやるなんて。そういうことはしないクラスだと思っていたのだけれども」
「そうか? 俺はやると思っていた。幸村もおるしな、思い出に残る劇にしたいものだ」
「ふふ、そうね。折角だものね。思い出に残るような出来栄えにはしたいわね」

頷きあって、笑いあう。まるで昔からの友人であったかの様に。彼は部活引退をしてから、クラスで怒ることが少なくなった。もともと輪を乱すことが苦手なのだろう彼は、今までの小姑のような説教をやめると物静かな普通の学生になった。なったというのは語弊があるだろう。きっと彼はもともとそうういう存在だったのだ。物静かで、正義感が強くて負けず嫌いな存在。
男子テニス部副部長なんて重苦しい肩書きをとったら、彼だって普通の学生だ。
いくらテニスで強かろうと同い年にかわりはない。

「真田君は劇に出ないの?」
「む。俺は不器用で、しかも小回りがきかん。役者などしょうに合わんからな、辞退した」
「そう? 真田君ならいいバンクォーが出来ると期待していたのに」
「残念ながら芸達者ではない。棒読みでもいいのならば出てもいいが」
悪戯っ子のように片目を閉じる真田君は高校生らしい青臭さがあった。
「一生の思い出にしたいもの、棒読みならば遠慮しておくわ」
喉の奥に押しやるようなくぐもった笑い声と共に髪の毛の上に手が置かれる。そしてその手が前後に動かされた。髪の毛が乱れて行くのが分かる。だけど、やめてという気には慣れなかった。

「いい劇にしよう」
「もちろんよ」
「なに二人で親密になっているの?」

ぶうと頬を膨らませた状態で、幸村君が顔を出す。
眉間にシワを寄せて不機嫌を表す幸村君の額に指を突きつけて、そんな顔していたら幸福が逃げて行くわよというと、ますます膨れられた。




「ねえ、真田と何を喋っていたの」
「何をって、特にどうもない話よ。世間話」
「ふーん、そう」

服作りもキリがいい所で終わり、久しぶりに幸村君と一緒に帰る。その途中、質問されたのだが、自分で訊いてきた割りには興味がなさそうに相槌をうたれる。失礼ね。そんなことを思っていると、幸村君が私の手を引いた。たたらを踏む。

「な、なに?!」
「友って力弱いよね」

いきなりの脆弱宣言に一瞬惚けてしまうが、すぐに言い返す。

「人並みにあるつもりよ」
「そうなの? でも、俺に引き寄せられるぐらいなんだから、弱いよ」
「あんたが強いだけでしょう」
「違うよ」

きっぱりと断定されて、こめかみが痙攣を起こす。

「なにが言いたいのよ」
「…………」

幸村君は無言のまま、ため息を吐いた。
え、なんで私がため息はかれなくちゃいけないのよ。
意味のわからないため息をききながら、私は首を傾げたまま帰路についた。



 
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