彼の視点
「ダリアの花だ」
「おや、本当だ。精市が好きそうな色味だな。よくわかったものだ、それにしても一輪だけか?」
「……そうみたいだね、でも綺麗だ」
「ダリアの花言葉はたしか、『華麗』『優雅』『威厳』『移り気』『不安定』『感謝』『栄華』だったか。届け人に心当たりがあるか?」
「うん、ある。きっと赤い薔薇が手に入らなかった誰かさんがかわりにくれたんだと思う」
『ありがとう、いつまでもテニスを楽しんで』
小さな花にくくりつけられていた紙にかかれた文字がいつも一緒にいた彼女の字で、幸村は悲しそうに微笑んだ
「きてくれたんなら直接渡せばいいのに、ほんと、バカだろ」
「………」
「ありがとう、約束守ってくれて」
全日本高校テニス硬式大会決勝戦
全国大会の決勝
高校三年の最後の年
彼女にもらったのは赤い薔薇なんかじゃなく、芥子色のダリアの花だった。