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全国大会決勝戦
初めてこの熱気に触れることが出来た。みながみな真ん中を食い入るように見つめる頂上対決。四角く区切られたコートは太陽の陽射しをうけながら森のように深く暖かい色を出していて、豊かなる自然に囲まれたような高揚感が胸を押す。胸の高鳴りを押さえつけるのが精一杯で私は息をすることさえ忘れそうになっていた。

テレビなんかでは味わえない緊張感。
これは、夢中になるわ



「友、辛いならいってね」

「大丈夫よお母さん」


お母さんには無理をいってつれてきてもらった。
三年近くだろうかちゃんと口をきいていなかった私が部屋から出てきてテニスの試合を見に行きたいといったらお母さんは泣きながらやめて欲しいと懇願した。無茶苦茶なことだとは思ったけれど、やっぱり泣かれてしまった。お母さんはテニス部の人が私のことをイジメテイタと先生か誰かにきいたのだろう。三年前よりほっそりとした、今にも骨だけになりそうな体で私にすがった、でも私はそれを受け入れることなんて出来なくて、強引にお母さんを説得して、見にきさせてもらった。


試合が始まると誰もかれもが真ん中のコートに釘付けになった。突き刺さる視線に選手はものともしない。屈強な精神はテニスにだけ注がれていた。ボールを見据える強い、それでキラキラとした瞳。本当に好きなのだと思った。純粋に楽しいんだと思った。その姿を見ているだけでお腹が膨れ上がって優しい気持ちが胸の中に溢れだす。リミッターなんてすべて取り壊してしまって、今までの黒く歪んだ心が洗われていく、懺悔したことも後悔したことも全てが消えていく。残ったのは軽い喪失感と疲れ。

残った感情は懐かしい感情と怒り出したくなる悲しいこと

ゆっくりと目を閉じて、これからどうすればいいのかを考える。私はどうしようもなく臆病だった、嫌われるのが怖くて駄目だったきっと今でも怖い。今からもきっとその怖さに心を囚われ続けて泣く日が来るだろう。いっぱいの後悔といままでやってきた負の感情にのまれて死のうと考えるかもしれない。きっとそれは尽きなくて、ふとしたときに考えるようになるのだと思う。
きっと死ねばこの辛さからは解放されるだろう。痛みによる体の痛さなんかからもこの精神的な痛みからも。
でも私は逃げたいのだろうか。
この痛みと辛さから逃れたいから死ぬのだろうか、あのとき屋上にいったときのように、逃げるためだけに下をみるのだろうか。暗い地下を高い空から見るのだろうか

私はそんなこともうしたくない。逃げるのはもう懲り懲りだ。現実はいつも私にくっついてくるのに、どうして逃げられるだなんて思ったのかよく分からない。きっと本当に現実から逃げるときは死ぬときだ。だったら私は生きて向き合うべきなのだと思う。暗くて苦しい時間を精一杯克服した、彼のように。私も現実に向き合わなくちゃいけない。

苦しい戦いになると思う。涙を流して強がらなくちゃいけないときもあると思う。それでも、私は決めた。もうなにもかもを背負いこんで逃げることだけはやめようと。もうあのことを解決するとかはどうでもいい。だから新しく積み上げていこうと。きっとそのときに積み上げた中からあのことがこぼれおちて解決すると思うから。だから気を張らなくてもいいんだ。分からないなら分からないままでいいんだ。私はそれぐらいには大人になったんだと思う。何かをそのままにしておくというのも大切で、なにもかもを追求ばかりしなくてもいいのだということを学んだんだと思う、諦めが、ついたと言うんだろうこの感情は。

赤い薔薇を持ってくるのは忘れてしまったけど、彼が好きだともらしていたダリアの花は持ってきている。花言葉は感謝。彼に贈るには最高の言葉だと思った。








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