幸村精市





不思議と、苦しくはなかった。ただ、心の中にあった夢をなくしたような、喪失感だけが広がる。

好きだよ。
そう書かれてもいない、手紙の束を皺がよらないように握り締めて、俺は友の家の前にきた。
友の家はシンと静まりかえっていて、去年まで来ていたときとはまた違う寂寥感を醸し出していた。友のお父さんが遠方に転勤になったときかされてはいたが、これほどまでに人気がなくなっているだなんて。友のお母さんの車が埃をかぶっているのが分かる。もう何ヵ月と乗られてはいないのだろう。
チクチクと胸が圧迫され、罪悪感が頭を回った。そんなことをしている場合ではないのに。友が昔育てていた花が枯れてしゅわしゅわになっていて、それを撫でて、気持ちを整える。
もう、迷いはない。
足を進めて、呼び鈴を鳴らした。
ピーンポーンと軽い音が鳴る。


「……幸村、精市です」

例えば、もし俺がキミを好きにならなければ、こんなことにはならなかっただろうか。
俺にはそれはよく分からないけど、もしそうだとしても、俺はキミのことを好きになってよかったと思う。


「友を助けさせて下さい」


だから諦めないよ。
だって諦めたら、おかしいじゃないか。俺の恋でこんなことになってしまったのに、易々と諦めたらさ。おかしいし、失礼じゃないか。キミに。


「いつになるかは分かりません。でも絶対に友を助けてみせます」


俺の、夢は。
プロテニス選手になって、キミと結婚することだったんだよ。


もしも許されるのならば、その夢が叶って欲しいんだけどね。

紙を――紙袋を―――本が中に入った紙袋をぐしゃりと握って、精一杯笑う。

俺に出来ることはそれだけしかないのだから。
真田に殴られた頬が今更ながら痛みを走らせた








 
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