幸村精市 五月八日






まず昨日のあのあとのことを話そう。取り敢えず、友のお母さんが帰ってきて、俺はいの一番に報告した。あのときの友のお母さんの慌ててぷりは筆舌尽くしがたいものがある、野菜をぶちまけ玄関先ですっころんでしまったドジな友のお母さんは見ていて新鮮だった。彼女はそんなドジなタイプではなかった筈なのだが、……うん、まあ、それだけ嬉しかったんだろう。その後俺は親子の対面を邪魔してはいけないだろうと少し名残惜しくはあったが退散し、ほくほく顔で家に帰っていった。家に帰ってしたことは、ノートの整理であったことを考えると俺も友のお母さんと肩を並べるぐらい嬉しかったのだ。今思うと浮かれすぎていたように思う。



そして今日。俺は珍しく朝早くに掛かってきた柳からの電話で叩き起こされた。どうやら昨日の先輩達の対話が上手く言ったようで俺達に来て欲しいとのこと。朝練前のかなり早い時間に起こされた俺は、それでも分かったと承諾して、直ぐに着替えて学校に向かった。早く、解決してあの先輩を友の前に突きだして謝らせよう。そればかりが頭を巡回していた。





部室の前に集まった俺達三人を迎えたのは部長だった。部長は申し訳なさそうな顔をして、俺達に口を開けた。

「中には堤腹がいる。どうかあいつの話を聞いてやって欲しい」


腰を下げて頭を垂れる部長に真田が困惑を示す。真田が訊いてくれと言わんばかりの視線を投げ掛けたから、柳は仕方がないというように部長に意見する。


「どうしてでしょうか。確かに本人に話しは訊きたいとは思っていました。しかし昨日のあの様子では俺達が訊いたところで答えてくれるとは思えませんでした。ですから俺達はつい部長のその口から事実を伝えてくれるものばかり思っていたのですが」

「俺も最初はそのはずだったんだけどな。でも、アイツは俺じゃあ駄目なところまでお前達に不満があるらしい。………部長としては情けないよ。部員の本音を聞き取れないだなんて」

でも、それだけ堤腹の不満は、多かったんだ。沈んだ声で言う部長。


「お前らに頼むのはこれで最後になると思う。俺達は今日中にとは言わないまでも、一週間中にはテニス部から退部することになっているからな。だから、最後に部長命令をきいてくれると嬉しい」

「………」


柳が押し黙り、俺に視線を寄越した。長細い目が俺に今後を問おてくる。俺は少し息を吐き出して、そしてぐっと息を吸った。


「部長のお話は聞けません。俺達に不満を押し付けて去っていくような人間の愚痴をきいたところで枷になるだけです」
「っ……。そりゃあ、そうだよな」
「でも、ちゃんと真実はきいてきます。どうしてこんなことしてしまったのか、その理由を。包み隠さず全てきいてきます」
「っ!幸村っ」
「勘違いしないで下さいね、彼女の―――被害者の為です。加害者の為に不満をきいてあげるわけじゃありませんから」


頭がまた下がる。真田が耐えきれずに上げて下さいと声を張り上げた。柳は俺の肩を叩いていいのかと聞いてくる。このDVD事件を通して何度も言われた言葉に俺は頷く。彼女、友の為だから。関係ない彼女を何故先輩が傷付けなければならなかったのか、それを俺は知って、先輩を糾弾しなくてはならないから。けして部長の為ではない。そして堤腹先輩の為でもない。


扉を開ける為に手を伸ばす。何故だか指先がピリピリした。





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