幸村精市 五月一日






DVDは取り出されて、俺はいったん柳にクールダウンさせられて、ソファーの上に座っていた。真田が眉を潜めながら、柳に呟く。柳はそれをきいてノートを取り出した。


「俺達が中学三年生のときだ、高等部であるDVDのジャンルが流行った。暴力を奮い、女子を監禁するという種類の下卑たジャンルが、な」

「なっ」

「勿論、表面下でだ。知らなかった人間も複数いるだろう。だが、高等部の男子テニス部はそうではなかった。殆どが見ていたと言っても過言ではない」

「……それで、このDVDは?」


自分でも驚くぐらい低くて、綺麗じゃない掠れた声を出した。柳はノートに視線を走らせて、俺を一瞥する。言ってもいいのかと確認をとられている。そんな気分になった、俺は首を縦に動かす。知らないままだなんてごめんだ。



「需要があまりなかったジャンルだけにそういう過激なDVDはなかなか出てはこない。……だったら自分で供給すればいい。その、結果だろう」

「まさか、自分達でDVDを作ったとでもいうのか!」

「作ったとでも、じゃないよ真田。もう作られているんだ」


DVDをぽんぽんと叩くと真田の顔が更に歪む。


「……何故、我々の使っていたDVDに」

「当て付けだと考えられるな」

「蓮二はもう誰だか分かっているんだろう」

「………」

「これを行った犯人を」

柳は瞼をおろして、ノートをいったん閉じた。俺は視線を上げて柳をみる。口がゆっくりと開かれた。


「このDVDは中学の部室に置いてあったものだ。つまり、このDVDを取りにいけるような立場にいる人間」


真田の唇がわなわなとふるえた。恋愛事には鈍感だけど、真田はこいううときは鋭い。


「テニス部の部室は基本的にテニス関係者以外は出入りが出来ない。つまり、テニス関係者ならば出入りは出来るというわけだ」

「……テニス関係者、か」

「丸井はやっていないぞ!」

「それは言わずとも分かっている。丸井がこんなことをやるわけがない」


柳が冷静に言う度に真田は理性をなくして熱くなる。俺はいつも通り熱くもなく冷めているわけでもなく、ただ真ん中に位置する感情を保ったまま、二人の会話をきいていた。昔からそういうスタイルで俺たちはやっている。だから、俺が取り乱すわけにもいかなかった。そうじゃないと、上手く物事は進んでいかないから。
昔一度だけ、俺と真田が対立したことがあった。そのときの物事のすすまなさは柳が冷静でいられなくて泣いてしまう程だった。そのときも確か、こんなことがあった。先輩からこんなことを――といってもこれよりは酷くはなかったけど、をされて、俺達が三人で寄り集まって解決した筈だ。三人集まれば文殊の知恵とは言ったものだと思った。
でも、そのときだって確か解決する為には俺は中立でいなければならなかった筈だ。

俺がどちらか一方に肩入れするとパワーバランスが崩れる、そう柳が言っていた。それは俺が誰かと対峙するときも同じで結局はそうではないのに幸村の方に流れてしまうのだと。まるで俺がその場を支配してしまうかのように。



「だが、丸井に話を聞かなくてはならないのは事実だ。どうであれ、明日聞くことにしよう。これは由々しき事態なのだ弦一郎。俺達だけでは手に追えない」

「しかし!」

「大丈夫だ。丸井が不利になることだけは絶対にさせない。だから顧問の先生に任せよう」


真田が渋るように腕を組み、上を向いた。俺の家は和風ではなく洋風の作りだから、天井は基本的に木の暖かみがある色ではなく白い。真田はその白を見つめて考え込んでいる。仲間を詰問することになるかもしれないのだ。真田だって、覚悟というものがいる。俺達は基本的に真田に喜怒哀楽の怒の部分は押し付けているから尚更真田には重くのし掛かっているのだろう。遅刻とかではならないのに。珍しく悩み込んでいる。
真田弦一郎という男の弱味を俺達は昔はよく見ていた。これでも仲間思いのやつで他人を叱るときだって他人の気持ちを考えるやつなのだ。そんなことをしたら強く怒れなくなるというのに、真田はやめない。しかもそれで強く怒れるところが凄いところ。

俺には絶対に真似できない。


「精市、どうだ、お前は何かあるか?」

「うーん、あるけど、でも今言うつもりはないよ。どうしても個人的なことが入ってしまって、テニス部としての判断が出来なくなるだろうから」

「………すまない」

「ううん、気にしないで。それに今回のは本当に俺一人が駄々をこねてる場合じゃないからね。真田」


上を向いていた真田の顔がこちらを向く。腕は組んだままなのでどうやらまだ悩んだままらしい。こう言うときは、引っ張ってやったほうがいい。真田との付き合いも長くなったことだし、それぐらいは分かるようになっていた。


「これは犯罪だよ。俺達だけでどうにか出来るレベルじゃない。先生に任せよう」



数分の沈黙。
そして、真田がいつものように眉を潜めて立ち上がる。


「……幸村が言うのならば、従おう。しかし、丸井が冤罪で裁かれるのは我慢ならん」

「ああ、俺達とてそう思っている」

「丸井には話を訊くだけだよ。そう大事にはならないさ」

「……うむ。少し頭を冷やしてくる」


ドアを開き、玄関へと向かったららしい真田にらしいと苦笑してしまった。




「誰が犯人だかもう検討ついているんだろう」


真田がいなくなった家で俺は頬杖をしながら蓮二に問い掛けた。


「丸井である可能はなきにしもあらずだが、まあ大体はな」

「この件、丸井が関わっていると思う?」

「でなければ丸井にこんなのが渡されたりはしないだろう。おそらく間接的に関わっている。精市はもう検討がついているのだろう?」

「まあ、ね。友が出てきた時点でなんとなくは」

「やり過ぎ、だな」

「ああ」



丸井は雪羅さんがイジメラレテいると思って友をいじめ始めた。そのいじめは拡散していったのだろう。いろんなところに、飛び火した。


「いじめ過ぎたというか完全に黙認していた。いじめをやり過ぎた。と言ったところか」

「……っ。ああ、そうだろうね。丸井は悪くない、あいつは多分加減が分からなかっただけだ。止めどきを知らなかったと言うべきだろうね」

「だが、どうする。丸井は確実に糾弾されるぞ、これは明らかにやり過ぎている」

「きっと丸井自身もやり過ぎている部分がないわけじゃないんだろうね。はあ、頭が痛いよ」

「関東大会出場中止になる確立、33.6%」

「そうなるわけにはいかないよ。今年も絶対に立海は勝つ。……弱ったな。真田にはこのこと伝えないほうがいいね。あいつには仲間のことを頼もう。俺達は大会に出場させることと、事件の早期解決に取り組もうか」

「精市、すまないな。いつも苦労をかける」

「ふふ、なんだか聞き覚えがある台詞だなぁ」


言い覚えのほうが正しいかもしれないけど。


「取り敢えず明日、丸井に話を訊こう。俺はきいたあと先生に話しにいくよ」

「部長は通さなくていいのか?」

「今の部長は外部から来た外部生だっただろう。このDVDの内容が録られたとしたら俺達が中学三年生の夏から秋にかけてだ。部長を通してもあんまり意味はないように思うけど」

「いや、通したほうがいい。俺達だけで独断行動をとるのは危険だ」


頑なにそういう柳に折れて、部長へ報告しに行くを選択肢の中にいれる。


「大事になりそうだな」

「なるよ、絶対に」



じゃないと友が浮かばれない。下唇を噛む。部長ではないのに、友の味方が出来ない。その無念さと後悔。
これは、昔から決めていたこと、だ。
仲間を守らなくてはならないと。………多分俺は今矛盾しているんだろうな。


キミを助けたい
でも、キミを助けられない

もう少し早くいってくれれば、どうにかなったのかもしれないのに。





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