幸村精市




全国大会団体優勝という華々しい経歴を残したあと三年生の先輩達はそそくさと引退し、二年生の先輩が部長に就任した。
俺達三強は個人の部で優勝、準優勝、三位の金銀銅のトロフィーを貰い、ダブルスでうちのゴールデンペアを倒してぺてん師コンビが優勝、ゴールデンペアは準優勝とどちらかといえば団体よりも活躍したようなかたちで夏が終わった。
友にもその活躍をみて欲しかったけど、彼女はまだ家から出られないでいる。まあ来年も再来年も大会はあるわけだし、気落ちすることでもないか。

そういえば雪羅さんが学校に復帰したと風の噂できいた。柳とはやっぱりいまだにこの件に対しては対立していて、怒鳴り合うようになるのだけはさけれるようになったけど、まだ不快感がお互いに残っている感じになっている。これもおいおい解決していかなくちゃなあ。

三年生へ書いた一年生全部からのメッセージ色紙を自分のロッカーに仕舞いこんで、やらなくちゃいけないことと今までやったことを整理して、俺は息を小さく吐いた。
思考の整理は俺が部長になってから身につけた癖のようなものだ。これをやると今までとこれからの区別をつけることが出来る。いらないもの、いるもの。資源のゴミと燃えないごみを分別するような感じでしちめんどくさいけど覚えてしまえばどうってことはない。


「赤也んところも見に行かなくちゃなあ……」


すること、やることリストに中等部の部活見学も入れる。関東大会はちゃんと王者立海大らしく優勝したってきいたけど、全国大会の結果はまだ聞いていない。赤也、大丈夫かな。部長っていう重りに窶れてないかな。うねうねとした髪が特徴の後輩の姿を思い浮かべて苦笑する。
赤也ってそんな精神弱いわけじゃないからな。俺じゃないんだし。

でも頑張っている姿はみたい。明日でも元レギュラーを誘っていってみようかな。
部屋を出て鍵をかけようと先輩からもらった鍵をポケットから出そうとして



「幸村く、ん」


声をかけられ、振り返った先に居たのはきっと今までちゃんと見たことがなかっただろうクラスメイトの女子。ブルブルと体がふるえている。今日はそんなに寒いわけじゃないのに、体を温めようと何度も何度も体と手をこすり合わせていた。


「どうしたの、西置さん」


人良い笑みを張り付けて、笑うと西置さんはもっと震えだした。


「話しが、あるの」


青ざめている顔色をみて、ああ嫌なことなんだろうなと気付く。
嫌だな、早く友の場所にいきたいのに。いいよと頷くと西置さんは無理やり笑みを浮かべた。









「ごめん」「ごめんなさい」「許して」「許して下さい」「ああなるはずじゃなかったの」「ただ、あなたと付き合うじゃないかって噂が出て」「みんな暴力的になってしまって」「だって、みんなあなたのことが好きだから」「大好きだから」「許せなかった」「あなたの隣でのほほんと笑うあの子が」「許せなかった」「好きでした、今でも好きなの、幸村くんっ、だからあの噂本当だったのか教えてほしい」「図々しいって分かってる。なにいっているんだこいつだよね」「でも、教えて」「そうじゃないとみんなを止められないの」「お願い」「お願いします」



全ての言葉が耳を通り抜けて、俺は咀嚼するのに時間をかけた。何を言っているのか分からなかったわけじゃない。寧ろ俺は彼女達に共感出来る立ち位置にいる。嫉妬で噂を流した俺と嫉妬で彼女に暴力をふるった彼女達。何が違いあるんだろうか。
俺が彼女達の位置だったら多分やるだろう。それぐらいには共感を覚えていた。

だから、問題なのはそこじゃない。
彼女がのほほんと俺の隣にいたように見えたら見えたでいい。彼女の良さは俺だけが知って俺だけが分かっていればいいし、彼女達に分かってもらおうとも思ってない。

問題なのは。


―――止められない。
その言葉だった。

どういうことだ。友はいなくなったっていうのに、学校にはいないっていうのに、止まらない?

被害者がいないのに止まらないなんて、ないだろう?
友が学校に来なくなった時点でもうその暴力的な行為は止まっているんじゃないのか。
なんで、終わっていない。


―――お前のせいでなんだぞ精市っ。

柳の言葉が何故かよみがえる。

そういえば、なんで雪羅愛鶴はいじめていたとされる友が学校に来なくなったあとに不登校になってしまったんだろうか。
そんな必要はないはずなのに。まるで、友がいなくなったから不登校にでもなったというように。

友はいつも守ってくれて、正義のヒーローなんだよ。
幼い頃の俺の記憶が呼び掛ける。雪羅さんは守られていたんじゃないだろうか。あの不器用なヒーローに保護されていたんじゃないだろうか。


`愛鶴は幸村君に似ているのよ´そう言っていた彼女。
雪羅さんは、もしかして昔イジメテイタのではないのだろうか。人が好みそうな性格といい、彼女に張り付いていることといい、俺そっくり。
そんな彼女がイジメテイタ姿なんて、簡単に思い起こすことが出来た。

そんな彼女がまた何らかの原因によってイジメラレテいる。それは別におかしいことじゃない。警察に保護されていた加害者が出所後被害者の家族に詰め寄られるのと同じようなことだろう。

もしかして、雪羅愛鶴がイジメラレテいるんじゃないのか。
でも、なんで
それが俺に関連する?

聞き出す為に見極めながら、頷き、肯定する。

「噂は本当だったよ」

正確には本当だよ、だけどね。


「………そう、なんだ」

「教えて欲しい、西置さん何が彼女の身におきたのか、そして何がおこっているのか」

「………ごめんなさい」
深々と頭を下げて、西置さんは俺に涙声で謝りかける

「雪羅愛鶴に、私の友達が提案したことが最初の始まりだったの」







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