幸村精市



氷帝戦を楽々とは言い難かったが下した俺達は関東大会優勝という華々しい栄光とともに全国大会への切符を得た。他にも二位の氷帝、三位の青学、四位の六角はそれぞれ全国大会出場が決定している。これから本格的に全国大会へ向けての練習となる。真田も柳もやる気満々でなんだか俺もワクワクしてきていた。一生懸命に練習して、絶対に全国大会出場するメンバーになろうと誓い合った。
そんな中爆弾が投入された日は全国大会のメンバーが決まったその日ことだった。



「哀川友のことなんにも分かってないな、幸村」

低い、唸り声のような声だった。まるでチューバの地をも振るわせる低音のよう。俺はその声を聞いてギロリと後ろを向き直る。そこに突っ立っていたのは今日でレギュラーを下ろされた、あの試合をした先輩。
もっていたバックを一度地面に置いてもう一度向き直った。先輩は俺を見据えながら、にやりと口角だけを上げて笑う。


「あははっ、マジで哀川友がお前のウィークポイントらしいな、綺麗な顔が台無しだぜ、幸村」

「…………」

なんだこいつ、なんで友のことなんて知っているんだ。


「そんなに哀川が好きなのかよ、神の子が好きな奴ねえ」

「……なんで、友の名前を」

「友?へえお前名前で呼んでんだ?俺のクラスの女子がさ、お前に名前呼ばれた子なんているのかなとか言ってたけどいるんだな。いつも名字で呼ぶくせに大切な奴の場合は名前って、そりゃあモテるよな、流石モテ男クンってか」


せりあがりそうな熱を押さえ込んで一度深呼吸をする。先輩相手に無礼をするわけにはいかない。俺は高校一年生の代表的存在でもあるんだ。俺のせいで一年生全体へ迷惑をかけるわけにはいかない。
でもこの先輩いちいち動作が芝居かかっててムカつく。先輩じゃなく真田がやっていたら殴り倒していたところだろう。というかそんな真田がいるわけないけど。そう思いながらも脳内で倒されていく長身老け顔帽子を殴りいい汗をかくデフォルメの俺。今度こういう話を仁王に持ちかけてみるか。奴だったら笑いそうだ。
まあ、こんないやったらしい笑みはごめんだが。

「……話がそれだけなら、帰らせてもらいますけど」

「おいおい、そう邪険にすんなって。いい情報持ってきてやったっていうのにひっでぇ奴。なあお前さ、なんで哀川が学校来ないんだと思う」

「……さあ」

「ヒントはDVD」

「どういうことですか」

眉が寄り、声に怒気が含まれていく。なんなんだこいつ、本当になんなんだ。

「それより、お前ら高一ってよ、中学のとき、家族みたいに、身内みたいにしてたんだって?テニス部でまとまって集中出来るようにさ。よく考えたよな」

でも、本当の家族でも身内でもねぇ奴のこと、お前は許せんのかなあ?


笑いながら言う言葉に青筋をたてながら、先輩だからと自分を諫めようとする。こんなことで怒ってたらキリがないじゃないか。落ち着け、幸村精市。

「神の子の癖に全然分かってないんだな、お前」


……神の子、か。
神の子なんかじゃ、ないんだけどなあ。
頭を掻いて笑顔を溢す。怒りなんて表すわけにはいけない。だいたい怒りを越えて呆れを吐き出してしまいそうな状態だ。
きっと友だったらこんな俺を見て顔を真っ赤にさせて怒ってくれるだろう。幼い頃から変わっていない彼女の行為を思い出す。
彼女は俺を神の子っていうの好きじゃないからなあ。しかもそれでグループの中でもリーダー格の女子を相手に大喧嘩してたっけ。懐かしい。


あの頃はまだ彼女に恋愛感情を抱いていなくて、お姉さんを心配する弟みたいに大丈夫なのかなとオロオロしていた。いつ彼女への気持ちに気が付いたんだったっけ。……まあ、簡単に出てるんだけどやっぱりこっぱずかしくて、俺は荷物を抱えて、先輩に一礼したあと彼女の家へと急ぐ。

――全然分かってないんだな
柳にも言われた言葉がよみがえる。分かっていない、か。だったら自分達は分かるとでもいうのだろうか。屈折した感情を押し込めてチャイムを鳴らす。
その頃にはもう嫌なことなんて全て吹き飛んでいた。








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