幸村精市





ギリリと唇を噛んだ癖にさ、実は俺次の日から楽しくてしかたがなかったんだ。友の家に朝と夕方いって友の部屋の前にいって友に喋りかけて、友のお母さんを慰めて、大丈夫ですよと笑って帰って日を越して、次の日になりまた友の家にいってを繰り返して、その繰り返しが楽しかったのだ。
俺の生活の殆どが哀川友で構成されている、そう思っただけで嬉しかった。何時もは面倒をみられる側の俺がということもあったけど俺がこんなに喜べる理由は他にもあった、でもやっぱり友と壁一枚越しだとしても二人でいられて嬉しかった。学校じゃあ他人の目があって言えなかったことも、そこではなんでも話せたからね、むしろこの状態が続けばいいだなんてそんな不謹慎なことまで考えていたよ。でもそんなに人生って甘くはない、天罰って言葉は案外あるものだったんだ。







「イジメテイタってどういうことだい?」

「そのままの意味だ」


梅雨ということもあり、基礎的なことしか屋内で出来ず、かなり早めに終わった部活の後、柳蓮二、俺の戦友とも親友とも言える彼が言った言葉は彼女に似つかわしくないものだった。イジメテイタ。正直で一生懸命で真っ向からの事が好きな彼女がイジメ?
そんな馬鹿な。
そんな回りくどいこと彼女がするわけがない。

「お前はそんなことはあり得ないと言うが、しかし本当のことだ」

「……いったい何の根拠でそんなことを言うんだい?……噂だとか言ったら承知しないぞ」


彼女についての噂はこの立海ではかなり飛び交っている。俺と付き合っているだとか丸井と付き合っているだとか、そんな根の葉もない……噂話。そんなことに一々耳を貸す柳だとは思えないが、でも柳とてほだされてしまう可能がある。ギロリと疑うように視線を走らせるとそうではないと柳が肩をすくめた。


「精市の幼なじみの噂は確かに多いがこの話は俺が生徒会長から直々にきいた話だ。信憑性はあるぞ」

「…………」


イジメテイタ。
友が?
そんなの何かの間違いに決まっている。
俺が知っている友はそんなこと絶対にしない。
頭に過ったのは薄気味悪い笑みをたたえてドアの向こうで来ないでと言った彼女。俺の知らない哀川友


「証人だっているそうだ。イジメテイタと証言する証人が」

「っ、そんな都合よく証人が現れる時点でおかしいんじゃないのかい?!」

「……ならば逆に精市、お前に問おう。お前は全国大会で哀川友の姿を見たことがあるか?」

「そ、それは……」

「証人は一人ではなく、証人は俺達の試合を見に来る途中で見たというやつが多い。彼女がイジメテイタ現状は数人に目撃されていた。その目撃された時間帯は全国大会の試合中だ」

「そ…んなっ」



―――「ごめんなさいね。わざわざ迷惑かけて。それと決勝戦観に行けなくてごめんなさい」

彼女は何故全国大会見にきてくれなかった?
それは俺がずっと考えていたこと。
本当に彼女がイジメテイタとでも言うのか。

「精市がこの話を信じていない確率82%」

「信じられるわけがない。俺の大切な幼なじみなんだ、友を疑うぐらいなら蓮二を疑うよ」

「しかし精市お前はそんな大切な幼なじみにあることを吹き込んだときいたぞ。キミを助けられないかもしれないとな」


冷ややかな眼差しを向けてくる蓮二に口ごもる。確かにその言葉を言ったことがあった。夏休み前だった、彼女に全国大会見にきてと言った数週間後のこと。


「それがなんだって言うんだい」

「お前が何故そんな事を言ったかは知らない。だがその次の日程から哀川友に関するある噂が広がったことは紛れもない事実だ」


ある、噂
………噂


「そしてその噂のせいで哀川友に対する風当たりが厳しくなったのもまた事実。彼女がいつイジメラレテもおかしくはない状況だったことはお前でも理解出来るだろう精市」


柳蓮二が言いたいことが俺には何となく分かってしまう。それは友の人情を真っ二つにしてしまう行為。


「友がイジメテイタという子は友達だった筈だ。なんでそんなことをするんだよ」

「友達だからこそだ。普通あの手の噂はそう易々と流れるものじゃない。哀川が友達に噂を流されたのだと思ったとしたらどうだ?」

「…………」

「哀川は友達のせいだと責め、雪羅愛鶴をイジメ始めた。誰でも予測がつくシナリオだな」


ぐらりと視界が逆さまになったような気がした。だってもしそうだと言うのならば俺のせいだ。だってその噂を流したのは誰でもない、俺なんだから。






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