幸村精市




その日は確か高校一年生になって初めての梅雨の日だったと覚えている。曇りきった空は青空を覗かせず不気味な巨大さで俺の頭の上に漂っていた。水蒸気の塊だということも忘れて彼女の家に行く途中、あれに乗れたら簡単に彼女の元に行けるだろうにな、だなんて考えて傘を何回もブンブンと回したのを覚えている。あの時の俺は彼女が恥ずかしがっているから学校に来ないものとばかり思っていた。外部受験で知らない人がいるのだからいきなりいって目立ちたくない、そんなの恥ずかしいと家に留まっているのだと思った。だからそんな軽い気持ちでいれた。
それなのに現実は残酷で、彼女に来ないでと言われた途端お気楽さは消え去って頭に血が上っていた。ドアが閉じられるとそのドアにすがり付いて何度だって音を出し彼女の名前を叫ぶ。雨の中その声は雨音に少し消されてしまうが、それでも諦めず何度も何度も。


「友、友……! 諦めない、諦めないからな!絶対!絶対に!」


あんな顔しらない
あんな顔、俺が知ってるあいつじゃない
いつもあいつはプライドがあった
何か悲しむしぐさはときたまあったけど、あんな顔みたことはなかった
まるで、あの時の俺だった。
あの病室での俺。


「諦めない……、絶対に…!」


ぎりりと歯と歯を噛み締める。幸いなことに俺には昔みたいな枷はない。部長ではない俺は彼女を助けれない理由などどこにもないのだ。
彼女にどんな理由があろうと絶対に学校に帰させてやる。そうそのときは夢物語のようなことを考えていた。

あの時の俺は知らなかったんだ。だから許されるってわけではけしてないだろうけど、でも本当に知らなかった。馬鹿みたいに滑稽な俺の罪を。
払拭出来ない咎めを。






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