供述二
「俺は犯人ではない。そして俺の前に供述した人は嘘をついてはいない」






あ、はじめまして。俺、鳳長太郎っていいます。話せて嬉しいなあ。俺、あなたのこと、尊敬していたんですよね。え?なにをって、昔放課後の音楽室でピアノひいたことありませんでした?俺、それを偶然きいたことがあったんです。『エリーゼの為に』。ひき方があまりにも感情的で荒々しく、嫉妬心が浮き彫りになった演奏。今でも覚えているなあ。『エリーゼの為に』とかいいながら、手に入れられない『エリーゼ』を手に入れられる男を殺さんばかりの、そんな曲。人間らしい黒々とした欲求の塊。あの曲を聴くと今でも思い出すんですよ。あの荒々しい演奏を。あんなひき方誰もしない。どんな著名の人の演奏でもあり得ない。それで何枚CDを駄目にしたことか分かりません。あなた以外の『エリーゼの為に』は息が吹き込まれていない風船のようなんですよ。今この場にピアノがないのが残念だな。あなたにひいてもらいたかったのに。『エリーゼの為に』をひいて欲しかったのになあ。もう一度あの曲をきいたら、こんなイライラとした気持ちなんてきえるんだろうに。ああ、痛くありませんか?手首を縛るだなんて、ピアニストにとって手はとっても大切なものなのに。………え?ピアニストじゃあ、ないんですか?そんな!冗談はよして下さい。そんなわけありませんよね?だって、……だって。あの演奏は本当にすごくて、俺あれならお金を出してでも聞きたいです。何度だって聞きたいです。そんな大層なものじゃない?なんでそんなこと言うんですか!本当に、感動したんです、俺!あんな風になりたいって初めて思えたんです。


「私にですか?」
「はい。なりたいって、こんな演奏してみたいって!」
「…………私みたいになりたい、ですか」
「はい!」


あんなの綺麗なものじゃないですよって、違います。あれは綺麗だから好きなわけじゃないんです。だってあのひき方は、人間らしかったから。人間が思いのままにひいた、演奏だったから。俺には出来ないんです、そんな演奏。よくて、抑揚のある綺麗な演奏。機械みたいだって、言われてて。音楽って機械的じゃ駄目な筈なのに、そんな演奏だって言われても嬉しくないのに。だから、あなたの演奏に憧れたんです。人間味溢れるあの演奏に。俺にはないものを持っているあなたに、凄く憧れたんです。
……手首。やっぱり痛いですよね。俺がどうにかしてあげられたらいいんですけど……。俺は手錠の鍵なんて持っていないから……。あ、でも忍足さんから八つ橋を差し入れに持ってきました。良ければ食べて下さい。……って、両手使えませんよね。食べれない……。そうだ!口開いて下さい!食べさせます!


「え、いやいやいやいいですよ」
「遠慮しないで下さい。はい、あーん」
「あ、いえ本当に」
「あーん、して下さい」
「大丈夫ですから」
「あーん」
「……あーん」
「はい、上手ですよ。美味しいですか?」
「…………うん、とっても美味しいです」


それはよかったです。忍足さんが差し入れだってくれたものですけど、今度俺がこれそうなときは他の食べ物持ってきますね。また食べさせてあげます。なにか食べたいものありますか?あるなら持ってきますよ。……さとうきびですか。甘いものが好きなんですね。しかもご当地系のもの。俺も好きです、なんだか限定ものって言われるとついつい買ってしまいますよね。次これそうなときにさとうきび持ってきますね!
………次はないほうがいい?どうしてですか?俺と会うの嫌でした?すいません、俺気持ち悪かったですよね、本当にすいませんっ。……へ?違う?どういう意味ですか?……ああ、そうか、あなたとしてはそうですよね。こんな場所に長いさせられるだなんて、身の毛もよだちますよね。すいません、察することが出来なくて。俺、一人で舞い上がっちゃって……。どうやったら出られそうか、ですか。それは俺にも分かりません。俺は先輩に会えると忍足さんからきいて皆に先輩がこうされていることをばらさないという条件の元で会っていますから。よくは分からないんです。……怪しい、ですよね。それは俺にも分かってるんですけど、でも本当の話だから、そう話すしかなくて……。俺、あなたと会いたくてここにいるだけだから……。……すいません。意味分かんないですよね。ごめんなさい。謝らないでって、そんなこと言われても、謝りたくなりますよ……。だってあなたは不自由な生活を強いられているっていうのに俺はうきうきしているだなんて、場違いにも程があるっていうか……。でも、本当です。俺はこの件に……あなたが閉じ込められている監禁に関わってはいないんです。俺が犯人ならあなたの手首をしめたりしません。……あ、痛そう。赤くなってる。次来るときは救急箱も持ってきますね。



「鳳さん、確認してもいいですか」
「はい、どうぞ」
「あなたは犯人じゃありませんよね?」
「はい。俺は犯人じゃあありません。そして忍足さんも犯人なんかじゃありません」


ではさとうきび次持ってきますね。風邪をひかないように体調には気をつけて下さい。









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