人の優劣は顔で決まるものではないっていうけれどもさ、人ってやっぱり性格じゃないよね、何よりも顔だよね。
たとえば、顔がいい奴はどんなにバカだろうと愛されるし、逆にどんなに頭がよくても不細工だったらバカにされる。ファーストコンタクトでは人の心なんて見えないのに、人は見かけじゃあ判断しちゃいけませんなんて言われる。じゃあ何で判断しろっていうんだろう。シンパシー? 仕草? 気遣い? いいや、やっぱり、どうしようもなく最初は顔からでしょ。
俺は昔から、詳しく言うと幼稚園の時から人は顔だって思ってたよ。
先生たちは美醜で可愛がる幼児を決めていたし、子供たちは可愛いか、かっこいいかで付き合う友達を決めていた。俺が好きだったサキちゃんもいつの間にかカッコよかった隣の組の男の子にべったりだったしね。
滝さんはかっこいいと思いますよって、ありがとう。お世辞でも嬉しいよ。

だいたい当たり前じゃないか? 人は見た目なのだから?

穿った見方だけどその通りだ。一般的には嫌悪される主張だけどね。みんな、いい子になりたがるのは、醜聞が怖いからなのかな? だとしても、そうやって美醜で判断するのは自分達だっていうのにね。まるでマッチポンプ。といえども、使い方に少し語弊があるかな。彼らは自分の使っている視点が差別的であるということを認識したくないだけなのかもね。自分がその基準で差別されないように。いじめを黙認している第三者みたいだね。手を出すと自分もいじめられてしまうからとなにもせずにいる傍観者気取りと。
そうやって目を逸らしたところでいじめはなくならないし、差別していることには変わりないのにね。
だって、人は見た目だ。


君もそうだった?
跡部と幼稚園も小学校も一緒だったんだよね?そうはいっても跡部は幼少期にイギリスに渡ったそうだから、小学校低学年までだろうけど。
……顔色が良くないね。調べられないと思った? 流石に気になっちゃうよ。君と跡部の関係って奴が。気にならないわけがないだろう。気にしないわけがないだろう。あの跡部と、縁も所縁もなさそうな君との関係のこと。

調べてみたら驚いたよ。君は幼少期跡部と仲が良かったんだよね? なんでも言い合えるとまでは言わないまでも一緒に遊んでいたんだろう? 家を行き来したことも何度もあるんだろう? 君は一般的な家庭の人間だったから、跡部の家に行ってすごく驚いたんだよね? あそこはお城みたいだもの、驚いて当たり前だよ。

しかも、おかしなことに二人に仲たがいするようなことは何一つなかった。跡部が転校するにあたって自然に縁が切れたんだんだってね。でも、それは他人から見た視点だ。当事者はまた違うんじゃないかな?
俺、少し考えてみたんだ。もしかして二人の間には跡部が転校する前になにかあったんじゃないかって。
じゃなければ、同じ学校に行っているっていうのにこの三年間、全く接触してないっていうのはおかしいことじゃないかな。
同じクラスになったことは勿論ないし、専門的に別れた選択教科が一回も被ることがないっていうのはおかしいを通りこして意図的過ぎて異常だよ。
ねえ、いったい何があったの? 君と跡部の間に。


「五月蠅い!」
「……感情的だね」
「五月蠅い、五月蠅い五月蠅い! なんだんだ、なんなんだよ、いい加減解放してよ……! 跡部、跡部跡部! あの学校の奴はみんなそうだ、いや、跡部がいるといつもそうだ。いつもいつもいつも。あいつばっかり! 耳障りなんだよ! あいつの名前も、あいつの顔も、あいつの話題も、あいつの思考も、あいつの才能も! ああ、なんだよ、私はいつもサリエリだったよ! だから、なんだって言うんだよ!」
「……質問に答えてくれないかな」
「質問? 跡部との関係は? 跡部とどうやって仲良くなった? どうして別れたの? いつも好奇心で胸をついてくるハエと、五月蠅いハエと同じじゃないですか」
「精神的に参ってるんだね。ごめん、刺激しすぎよ。今の君に跡部の質問は鬼門だった」
「いいですよ。どうせ、いつ訊かれてもそうなんですから。まあ、監禁されてて流石の私も精神的におかしくなっているのかもしれませんけどね。あはは、滑稽すぎますね。さっきは怒鳴ってすいませんでした。私、跡部嫌いなんですよ。嫌いで嫌いで仕方がないんです」
「…………それは、なぜ?」
「え? だって、むかつきません? あんな完璧な人間って。綺麗で、高潔で純潔で神聖で最先端をいっていて賢くで懸命で貪欲で完璧みたいじゃないですか。それでいてテニスの才能だけじゃなく、何をやらせても才覚があるんですよ。折り紙折っても、そろばんやっても、絵を書いても、作文書いても、本を読ませても、スポーツ大会に出ても跡部は完璧にこなしてしまう。完璧すぎるほどに」
「……」
「跡部がまだ小学校にいたときの武勇伝知ってます? 表彰された回数が全校生徒とほぼ同じだったんですよ。六年生までいたらどうなってたんですかねえ。すごいね跡部君、偉いわ跡部君。賞賛の声は絶えなくて、近くて聞いてるだけで胸やけがしました。自分ではない人の賛美を聞くことがあんなに気持ちが悪いなんて教えてくれたのは跡部なんですよ? お礼を言う気にはなれませんけど」
「嫉妬してたの?」
「勿論ですよ。嫉妬って人間が人間であるためにプログラミングされたものなんですよ。だってじゃなきゃこんなに汚くて、どろどろした思いが胸の中にたまるわけないですよ。だから跡部にも勿論嫉妬しました。メラメラメラメラ、焼けつくようでしたよ。跡部は気が付いていなかったみたいですけど」
「君はどうしたの? 跡部に、何をしたの?」
「ははん、滝さんは跡部と会ったんですね。そしてそのハエのような好奇心を盾に、或は矛にして私のことを訊いたんだ。そして、跡部からしっぺ返しを食らった、当たってます?」
「わかるの?」
「ええ! これまでも、跡部の彼女を名乗る奴らが私に言いに来たんですよ。景吾に何をしたのって。滝さんが私と跡部の関係を聞いた人達って跡部の元彼女さんとかじゃないんですか? その人達がですよ、氷帝に入って一度も会っていない跡部の名前を出してやってきた。話を聞くと跡部がおかしくなったってみんなが言ってましたよ」
「あんな跡部見たことない」
「見たことないから変わってしまったんですか? もともと跡部はあんな性格で、それまで演技してたとは欠片も思わないんですか? 何を根拠に? テニスをやっている跡部を見ているからですか? でも、それって知ったかぶっていただけじゃないんですか? それとも跡部があんな性格じゃなかったと証言できますか? 私のほうが昔を知っているのに?」
「ちょっと、君……」
「だれも跡部の本性なんて知らない。跡部は仮面を被っているかもしれないんですよ? 跡部の性格なんて誰もわからない。跡部のことなんて何もわからない。跡部は私に転校のことを話したときに言ってましたよ。これからイギリスでの生活が悲しくもあるが、楽しみでもあるってね」
「ねえ、君は……」
「そこから跡部のことが分からなくなりました。あの時まで、確かに、遠いとは思っていたけれど、遠すぎるとは思っていたけど、分かっていたはずなのに。跡部の悲しいも、苦しいも、嬉しいも、楽しいも、分かっていたのに。でも、あの時私は跡部が楽しみであるだなんてわからなかった。悲しんでくれるものだと思っていたのに……。遠すぎて、嫉妬して、ぐるぐるになって、友達を嫌いになるのが嫌で、でもそれがカバーできるぐらい大好きだったのに、気持ちがせき止められなくなって。憎くてしかたなくなったんですよ……!」
「もしかして」
「だから、分からなくなった跡部を消して回ったんです。消して、消して、消して、跡部がくれた折り紙は踏み潰して回りましたよ。跡部がなんて言おうと私が跡部にやった大切なものを全て燃やして捨てました。一緒にかいた絵も作文もビリビリに破って、物語の続きを考えたファンタジーは折り曲げて川に投げ込みました。奇行に初めは止めに入っていた跡部もそのうちあきらめましたよ。散々壊してまわりましたからね。楽しかったけど、今思うとガキ過ぎて恥ずかしいですね」
「それで、君と跡部は決別した」
「ええ、概ねその通りです」
「ねえ、君は跡部のこと、好きだったんじゃないの? そうしてしまうほど好きだったんじゃないの?」
「滝さん、小さい時の話ですよ? 恋愛感情なんてありませんでしたし、子供が暴れまわっただけです」
「……そう。でも、じゃあ今の関係は? 君と跡部の関係はなんなの?」
「さあ、私にもよく分かっていないんです。この関係はなんなのか、跡部が私に何を望んでいるのか」
「……もっと、何かあるんだね」
「よくわかりますね」
「跡部の君に対する執着は異常だ。固執している。執拗に君に対して感情が暴走している」
「まるで、片思いしているようですか?」
「よく言われる?」
「そうですね、来る女の子は特に」
「俺はあれが片思いなんて生易しいものじゃないと思うな」
「どうでしょう、何せもう何年も会っていないもので」
「会っていなくても、跡部は君のことを知っているよ」
「…………それは気持ち悪い」
「君のことなんでも知らないと気が済まないとまで言っていたよ。他にも、君を壊したいとも」
「あはは」
「……笑うんだ」
「だって、いつかはこうなるだろうなあって思っていたので。やっぱり来ちゃったんですね」
「どういうこと?」
「壊すんです」
「何を?」
「自分を、自分で」
「は?」
「跡部が、やるといったんですよ」
「何を、言っているの?」
「これも因果応報なのかな。跡部にやると言われて他人を壊してきたから」
「ねえ、俺の声聞こえている?」
「跡部は悪癖があるんです、自分の気に入った人間を私にやるっている悪癖が」
「……ごめん、意味が分からない」
「ねえ、滝さん。私が跡部の大切なもの壊し続けたら、跡部はどうなったと思いますか? 一体跡部の中でどんな変化が起こったと思いますか?」
「流れ的に、君に自分の気に入ったものを壊すようにと言ってきたってこと? 君が壊す前に自分から差し出してきたってこと?」
「はい、そうです」
「じゃあ君に何もかも跡部は与え続けてきたってこと?」
「はい」
「大切なものを全部?」
「はい」
「なぜ?」
「わかりません」
「考えなかったの?」
「考えたくありませんでした」
「好きだったのに?」
「もうその時は憎かったんです、そして、跡部が差し出すようになって怖くなりました」
「君が跡部にやったからだろ?」
「はい、自業自得です。でも、怖いんですよ」


なら、逃げればよかったじゃないか。なんで君は跡部と同じ学校に来たの? 

そんなに肩を震わせて子犬みたいに怯えるなら氷帝に入らなければよかったんだ。

……え?
…………跡部。
そうか、跡部がそれを許さないのか。
例え君に通う気がなくても、君は氷帝に通わざるをおえなくなったのか。
そうだね、跡部が君を逃がすはずがない。
鏡の中に君を入れて自分が覗き込んだ時しか見えなくなってしまえばいいといった跡部が君を手放すわけがない。
君はもしかしてこの三年間怯えて過ごしたんじゃないの?
昔、自分が壊してしまった友達に怯えていたんじゃないの?
どうして君なんだろうね。
跡部にとってなぜ君が必要なんだろうね。
君はどこにでもいる普通の人だ。
君は自分をサリエリだといったけれど、君はサリエリですらない。
君はサリエリのようにモーツァルトに共感できない。
言われた音符はかけないし、言われた楽器は全く知らない。
それでも君でなければ跡部はダメなんだ。
君にとっては不運なことに、ね。

「辛い?」
「辛くないわけが、ないです」
「監禁されて、次は何をされるんだろう。跡部は君に何をするんだろう」
「わからないです」
「本当に?」
「分からないって言っているじゃないですか」
「そう、でも辛いことには間違いないね。もう犯人は分かっているんだろう? ならば犯人に言ってみるといい。明日来るよ」
「………………」
「出たいなら出たいと正直に言ってみたらどう? もしかしたら聞き入れてくれるかもしれないよ?」
「あ、は」
「間違えないでほしい、俺は君に同情的なんだ。確かに過去、君がおかしたことはひどいと思う。だけど、君がこうやって理不尽なゲームに付き合わされているのはしのびないんだ。同じ氷帝学園の生徒として」
「なら、ここから出して下さいよ」
「それは無理だ」
「出して、」
「無理だって」
「なんで、ですか」
「それは君も分かっているだろう? 犯人は君を鏡の中に入れたいとさえ言っているんだよ」
「たすけ、」
「無理だ」
「…………」

青ざめたその顔さえ跡部は今も見ているかもしれない。
いや、確実に見ているだろうね。そして笑っていると思うよ。跡部が君に怖がられていることをしらないはずがない。きっとそうなるように思想を動かされたはずだ。君に壊すことを強要したのだってそうなのかもしれない。
でも、もうどうしようもない。
じゃあね、また会おう。
バイバイ。







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