口を開けて下さい。忍足さんに歯を磨いて貰わなかったんですよね。何故かは分からないですし、きいてもいけないとも思うんですけど、なんだか役得ですね、えへへ。じゃあ、歯磨き粉つけますね。

先輩はモーツァルトの話し訊いたことがありますか? 「アマデウス」で見たことがある? ああ、授業で! 確かに授業でみましたね。サリエリ最後怖くありませんでした? 高笑いしながら車椅子に乗る人はトラウマでした。モーツァルトの亡霊でも移ったんじゃないかと思いましたよ。
でも、あの映画っておかしいですよね。なんでモーツァルトがサリエリにではなくて、サリエリがモーツァルトに嫉妬しているんでしょうか?

モーツァルトが天才だったから? でも、実際サリエリの方が天才なんですよ? 身分も高かったですし。どういうこと? あ、はい! 説明させて下さい!

サリエリ、アントニオ・サリエリはイタリア出身の作曲家なんです。幼い頃より天才的な音楽センスを持っていたサリエリは当時の神聖ローマ帝国に宮廷音長に抜擢されました。時の皇帝、マリーアントワネットの兄でもあるヨーゼフ二世は音楽に感心がある人だったので、サリエリは宮廷音長になったんです。ここまでの話でも分かるとおり、サリエリは成功した人なんです。

映画とは印象が違う? 映画はサリエリ視点で進んでいきましたから、そんなに偉い人だとは思えませんよね。

…………でもモーツァルトが嫉妬する理由が分からない? サリエリが天才で、モーツァルトに嫉妬する理由がないのは分かったけど、ですか。
あ! そっか、そうですね。サリエリについてしか語っていませんでしたね。じゃあ次はモーツァルトについて話します。
モーツァルトは音楽家の家庭に生まれました。ちなみに俺の母も音楽関係の仕事についてます。だからこそ分かるんですが、音楽家がいる家庭だと嫌でもピアノを習わせられるんですよね。モーツァルトもそうでした。彼の場合、父親の策略もあって、いろんなところに演奏旅行しにいったそうです。
目隠ししながらピアノを弾いた話しは有名ですよね。
『アマデウス』でもそんなくだりがありましたよね。でも、モーツァルト自身、目隠ししながらピアノを弾くぐらい、練習すれば出来るらしいですよ。案外、出来ないことでもないかもしれません。盲目のピアニストもいるくらいですから。
彼、モーツァルトは才能と人格が伴っていませんでした。『アマデウス』でもあった通り、酷く下品で変わった人物だったとされています。浪費が激しく、それでいて決まった主が居ませんでした。
父親はモーツァルトの才能を見込んでいろんなところに旅に出て売り込みに行っていたんですが、結局それは徒労に終わってしまったんです。
モーツァルトは、途中、皇帝に取り立ててもらい宮廷音楽家の仲間入りを果たしました。しかし、モーツァルトの浪費癖はなおらず、安月給であったため家計は火の車でした。さらにヨーゼフ二世は母親との折り合いも悪かったモーツァルトに冷遇し、死体は今でも発見されていないらしいですよ。
天才が後の世に有名になるのは有名な話ですが報われませんよね。まあ、性格に難があったせいだというのもあるんでしょうが。
ともかく、モーツァルトは当時そこまで売れてはいませんでした。
いまでこそ天才の名を欲しいままにしていますが、その実、金に困り、借金ばかりしていたそうです。

「なるほど、当時にしてみればモーツァルトからすればサリエリが恨めしくて仕方なかったんですね」
「はい。実際、モーツァルトが書いた手紙の中にもサリエリのせいでという文章が残っているそうです」
「もし、サリエリがモーツァルトのことを歯牙にもかけていなかったら完全な八つ当たりですね……」
「そうなんです。だからあの映画を見る度になんだかおかしな気分になるんですよ」

後の世に天才と歌われる人にもやっぱり嫉妬という感情があるんでしょうか。
ならば、なんだか近い存在のような気がして仕方ないです。天才って、どこか神秘的で神聖な感じがしませんか?
だから遠いっていうか、遠くにあるっていうか。
近付けないって感じがしませんか?

なにかきっかけがないと近寄れない。そんなものだと勝手ながら思っています。

「…………そうですね」
「あ、あのっ」
「はい」
「貴女はどうですか? やっぱり貴女も嫉妬とかするんでしょうか?」
「まあ、人間だから」
「そ、そうですよね! 当たり前ですよね!」

でも、跡部さんとかそんなことあるのかなあ。
…………どうかしましたか?
あ! 歯磨きもういいんですか? 長々と喋っちゃいましたもんね、すぐ水持ってくるんですすいで下さい!









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