嫌いだった。
なんでも出来るところも、嫌に目立つところも全部。
私のクラスには世界の中心人物がいる。キラキラと光を放っていて、直視することも出来ないぐらい眩い。
大っ嫌いだった。
憎いとさえ思っていた。
だから、いや違う。時系列が違う。
私は、嫌う前にきちんと好きだったはずだ。なのに。なんだかこんがらがって来た。小学生の姿をした私が困ったように私を見た。
ああ、夢だ。分かってしまうと酷く安堵する。ここは夢の中。誰からも怯える必要なんかない。そこで私は疑問に思ってしまう。何に怯えていたんだっけか。
夢を見るのは記憶を整理しているからだと聞いたことがあるような気がする。ならば夢の中で記憶があやふやになるのは仕方ないように思う。意識を手放していく。もう深く考えるのは嫌だった。

***




私みたいな人間は他人を羨むことしか出来ない。他人の才能に難癖をつけて嫌みを宣い、自分と他人は違うのだと、あいつはおかしいのだと勝手に解釈して嫉妬心で相手を潰す。そんなことしか出来ない。その癖、自分はなにも出来ない、目立った特徴がないのだからお笑い草だ。結局それは僻みだということに何故気づけないのだろう。いや違うのか。何故気付いていながら感化されてしまうのか、だったか。


「――カッコイイよね!」

窓の外をみてまた寒くなるなと思った。食欲を引き立てるこの季節はどこか儚げで愁いを帯びている。私は手を上に上げてあくびをした。この時期になると皆早々に下校や部活に行っていた。特になにとして所属している部活がない私は少しだけ帰るのが偲ばしくなり、椅子にまだ腰掛けていた。

「分かる、分かる!なんていうか、男前って感じだよね!」
「そうそう!」

近くには同級生の女子が話し合っていた。どうやら学校の男の子の話のようだ。思春期の女の子という感じで言い合う姿は愛嬌があった。そこには悪意のなにもない純粋な好意がある。
私には全くないものだ。
愛は打算的であり狡猾でなければならない。なんて思っているのだから仕方がないのだろうが。

「あー、―――くんとかにだったら監禁されてみたい!」
「警察に連絡するぞ変態!」
「ばーか!変態というなの紳士だよ!」
「紳士というなの変態だね」
「警察にいって手錠かけられてこい!」


……純粋な好意、なのだろうこれも。たぶん。うん。
愛し方って人それぞれだし、個人の意思って尊重されてしかるべきだよね。
うん。
とりあえず、私にはありえないそういった感情を持っている彼女達は私にとってみれば妬ましいという言葉以外にない。
恋とか、私に出来る日がくるのだろうか。
それこそ、監禁されてもいいようになるそんな恋とか。
無理っぽいなー。


学校のチャイムがなる。
その音で彼女達は蟻のように列をなしてテニスバックを持って出ていってしまった。私も帰ろう、身の回りのものを片付けて椅子から立ち上がると彼女達が囲んでいた席にポツンと紙が置いてあった。
少しだけ気になって、チラリと紙を手にとる。
そこにはある四人の供述とそして赤文字でかかれたある言葉。
なんとなく気になったその紙をポケットの中に入れ込んで私は教室を出ていった。



外は凄く寒かった、秋風というやつなのだろうか。体の底から冷えるような感覚。
暇潰しに近くにあった公園を歩く。並木通りにはたくさんの銀杏がある。
風が靡く度に葉っぱが舞い上がる。その風景が異常に綺麗で、足を止める。

赤に黄色にオレンジ。
舞い上がる葉っぱの向こう側に誰かがいた。
大きな声を出してなにかしらを叫んでいる……?
耳をすましてよく聞く。
なにを叫んでいるのだろうか。同じ氷帝の制服ということは分かった。もしかしたら私になにかようなのだろうか。

一歩足を踏み出した。
――そして、そのとき視界が暗闇にかわり
ガタリと耳元でなにかが崩れ落ちる音が聞こえた


「―――――」
なんだろう

聞き覚えがある声が後ろで唸るように声を出ていたような気がした。









































「で、こうなる訳なんだ」

ジャラリと動く度に音を鳴らす銀色のものは私を縛りつけたまま、その先は鉄格子のような鉄の先に繋がれ動こうと動かしてみてもうんともすんとも言わない。

「うわぁ、うわぁあ」

奇妙な声をあげるものの、その間に頭は段々と冷静になっていく。
ここはどこなんだろう
私は確か、公園で倒れたはずだったのに。
なんでこんなところにいる?

埃や塵、シミが角に存在していてこの部屋自体には清潔感がまるでない。
どこかの部屋のような気がするがどう考えても公園にこんな部屋などなかったはずだ。
それにこんなものも、なかったはず。

腕には――銀色をした手錠。
嫌に本物っぽいところが洒落にならない。頑丈そうなやつ。重みがあり、どこかに打ち付けても壊れることはないだろう。

私はなにか罪を犯したのかな……。
手錠がかけられる本来の意味を思うと背筋がさむくなった。
知らず知らずのうちに私は警察に捕まったのだろうか。
クルクルと回る頭の中でそんなことなかったはずと思考が訴えかける。
うん、なかったよね。
なかった、はず。

くるりと見渡した部屋が何故だか牢獄に見えて、少しだけ身震いして、目蓋を落とした。




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