供述四
「俺は犯人を知っている。犯人は俺だからだ」






「誰だか知りませんが、早く犯人を見付けて出ていってくれませんか」
「……私だってそうしたいんですけどね」
「はんっ、どうだか。あんたは犯人を見付けたいと思っておきながらツメが甘いんですよ。現状に甘んじている証拠だ。滝さんに、前の二人のことを訊いたりしていないのはバカだとしか言えませんね」
「滝さんが私に有益な情報を与えてくれるかどうか分からないじゃないですか」
「例えそうだとしても、滝さんが他の二人を陥れるような事を言ったら滝さんは犯人候補筆頭に上がるじゃないですか。それに滝さんが犯人じゃなくても、そういう人物情報は手に入れて然るべきだと思いますが」
「それは……」
「それは例え三人が共犯であっても、犯人のことを知るのは良いことの筈です。三人が共犯でないにしても三人の犯人候補のことは調べるのは普通のこと。あんたは慎重だけど、ひっくり返せば臆病なだけだ。俺はそれを甘えているって言うんですよ」



よく私の性格を掴んでいる? 当たり前ですよ、前の三人に話をきいてきていますから。大体知らない人の世話をしなくちゃいけないんだ、それぐらいの事前情報は訊いて当然だと思いますが。
名前……? はん、それを知ってどうするんですか。あんたにとって俺の名前が重要だとは全く思えないんですけど。……? 重要ではないだろうけど知りたい?………。………。………………。
…………日吉若です。別に覚えて貰わなくてもいいです。あんたの目的はここからいなくなること。そして俺の目的はあんたがここからいなくなること。利害が一致したから名前を教えただけですから、勘違いしないで下さいね。あんたと馴れ合う気はないですから。

……なんですか、無闇に呼ばないでくれませんか。馴れ馴れしいですよ。……、はい。……あんたの名前は知っています。別に言わなくていいです。
……。……忍足さん、についてですか。何ですか今更、俺に言われたから調べる気になったんですか。まるでお母さんに宿題をしなさいと怒られた子供みたいですね。……はん。そう思いたければ思えばいい、ですか。じゃあ俺は勝手に思わせてもらうとしますよ。………。

………。…………。
………。…………。

はあ、分かりました。話しますから、睨まないで下さい。見られているとなめまわされているようで気持ち悪いですから。

忍足侑士
三年生。テニス部レギュラー。関西出身。
現在、あんたの生活の世話をしている。眼鏡をかけているけど、度は入っていない。………それくらいですね。
……? そんなの知りませんよ、重要じゃないものをきいたのはあんたですよ。……個人的なことを訊いても、自分の為にならない。そうですよ、あんたは自分に関連するものしか聞いちゃいけません。だってあんたが探しているのは……、そう、あんたが言う通り犯人なんですから。




「漠然とした聞き方じゃ駄目なんですね」
「………」
「そして、訊きすぎるのもよくない。警戒心を与えてしまうから」
「……分かりましたか。あんたは爪が甘いんだ、あんたをはめた犯人は必ずいる、のにあんたはそんな心得さえ知らなかった。犯人を探す気がなかったと言われても文句は出せませんよね」
「……ほんとうですね」


……はっ、なんで俺に謝っているんですか? 俺に謝ってどうするんですか。俺だってあんたをここに繋いだ犯人かもしれないの、理解してます? 少しは警戒心を持ったらどうですか。そんなんだからこんなことになるんですよ。あんたがぼーっとしているからこんな悪趣味なのに付き合わなくちゃいけなくなったじゃないですか。……めんどくさい。俺は早く帰ってテニスをしたいんですけど。



「すいません。じゃあ帰る前に一つだけ」
「はあ、なんですか」
「日吉さんが犯人じゃあないですよね」
「……そ、れ、で、本当のこと言うと思いますか?馬鹿馬鹿しい」
「それは……そうですけど」
「………。でもまあ、いい機会です。俺はあんたと馴れ合うのはごめんだ。俺が犯人です。だから、滝さんは嘘をついている」
「………」
「俺にも警戒して下さいね。その安心オーラだだもれさせないで下さい。あんた馬鹿ですか? さっきも言ったと思いますけどちゃんと疑って下さい」
「……はい」
「俺はこの犯人になりえるんですから」











人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -